ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+26
P.F. Drucker Eternal Collection 1
The Effective Executive
Chapter:5
第5章❖最も重要なことに集中せよ
□ 一つのことに集中せよ
成果をあげるための秘訣を一つだけ挙げるならば、それは集中である。
成果をあげる人は最も重要なことから始め、しかも一度に一つのことしか
しない。
集中が必要なのは仕事の本質と人の本質による。いくつかの理由はすでに
明らかである。貢献を行うための時間よりも、行わなければならない貢献の
ほうが多いからである。行うべき貢献を分析すれば、当惑するほど多くの
重要な仕事が出てくる。時間を分析すれば、真の貢献をもたらす仕事に
割ける時間があまりに少ないことがわかる。いかに時間を管理しようとも、
時間の半分以上は依然として自分の時間ではない。
時間の収支は常に赤字である。
上方への貢献に焦点を合わせるほどまとまった時間が必要になる。
忙しさに身を任せるのではなく成果をあげることに力を入れるには、
継続的な努力が必要となる。そのためにはまとまった時間が必要となる。
真に生産的な半日あるいは二週間を手に入れるには、厳しい自己管理と
ノーといえるだけの不動の決意が必要である。
自らの強みを生かそうとすれば、その強みを重要な機会に集中する必要を
認識する。事実、それ以外に成果をあげる方法はない。
二つはおろか、一つでさえ、よい仕事をすることは難しいという現実が
集中を要求する。人には驚くほど多様な能力がある。
人はよろず屋である。だがその多様性を生産的に使うには、それらの多様な
能力を一つの仕事に集中することが不可欠である。
あらゆる能力を一つの成果に向けるには集中するしかない。
いくつもの球を操ることは曲芸である。一○分間が限度である。
もちろん、いろいろな人がいる。同時に二つの仕事を手がけ、テンポを
変えて行ったほうがよくできるという人がいる。だがそのような人でも、
二つの仕事のいずれにおいても成果をあげるには、まとまった時間が
必要である。ただし三つの仕事を同時に抱えて卓越した成果をあげる人は
ほとんどいない。
もちろんモーツァルトがいた。彼はいくつかの曲を同時に作曲した。
すべてが傑作だった。彼は唯一根の例外である。
バッハ、ヘンデル、ハイドン、ヴェルディは、多作であっても、一度に
一曲しかつくらなかった。一つを完成させてから、一時わきに置いてからで
なければ新しい曲に取りかからなかった。
組織で働く者が仕事のモーツァルトになることは至難である。
この続きは、次回に。