ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+39
そのような考えからヴェイルは、第一に、ベルの事業は公共のニーズを
予見し、それを満足させることであると規定する決定を行った。
社長に就任するや直ちに、「われわれの事業はサービスである」をベルの
社訓としたのである。二○世紀に入って間もない当時、そのような考えは
異端だった。しかしヴェイルは、サービスを提供することが事業であり、
そのサービスを可能とし利益をあげるものにすることがベルのマネジメ
ントの仕事であるとした。
しかも彼は、このことを説いただけではなかった。彼は実際に経営管理者と
その活動を評価するための基準をつくり、彼らがもたらした利益よりも、
提供したサービスを評価するようにした。ベルの経営管理者には、公衆に
対するサービスにおいて成果をあげる責任があるとした。
そして、最高のサービスが最適の利益をもたらすようベル全体を組織し、
財務を手当てすることがトップマネジメントの職務であるとした。
第二に、ヴェイルは、全国規模の通信事業における独占体は、伝統的な
意味における自由企業、すなわちまったく拘束を受けない民間企業では
ありえないと考えた。そこで彼は、国有に代わる唯一の方策として、公益の
ための規制の強化を考えた。公正で効果的かつ原則に立った公的規制は、
ベルの利害に一致しその存続に不可欠であるとした。
ヴェイルがこの結論に達した当時、アメリカでは公的規制は存在しない
わけではなかったが、概して無力だった。産業界の反対が司法の強力な
助けを得て法律を骨抜きにしていた。規制にあたる各種委員会も人手不足と
予算不足に悩み、しかも三流の腐敗した政治屋のたむろする暇つぶしの
場になっていた。
ヴェイルはそのような公的規制を効果的なものにすることをベルの目標
とした。彼はそれを各地の傘下企業の社長たちの仕事とした。
各地の監督機関に活力を与えることが彼らの仕事となった。さらにまた
ベルに本来の仕事をさせつつ、公共の利益のための公正かつ公平な規制と、
料金設定に関する新しい理念を発展させることが彼らの仕事となった。
ベルのトップマネジメントは、彼ら子会社の社長の中から選ばれた。
その結果ベル全体に規制に対する肯定的な姿勢が浸透することになった。
● 異端
正統から外れていること。また、その時代に多数から正統と認められて
いるものに対して、例外的に少数に信じられている宗教・学説など。「―の説」
この続きは、次回に。