ピーター・F・ドラッカー「経営者の条件」㊿+46
もちろん新しい種類の問題を昔からの問題、したがって古い原則が適用
されるべき問題の一つとして扱うこともある。
この間違いが、ニューヨークとオンタリオの州境近くで起こった局地的な
停電事故を加速的に拡大し、ついには北米大陸の北東部全体を停電させた。
電力技師、特にニューヨーク市の電力技師たちは、通常の過負荷に対する
対処としては正しい原則を適用した。しかし、そのときすでに計器はそれ
までの標準的な措置ではなく、新しい対応が必要な事態が起こっている
ことを知らせていたのだった。
これらの間違いに対し、ケネディ政権の唯一の偉大な勝利、すなわち
キューバのミサイル危機における勝利は、ケネディ自身がミサイル危機を
異常で例外的な挑戦としてとらえたことによっていた。
この挑戦に応えることによって、ケネディの知性と勇気という二つの資質が
まさに効果的に発揮されたのだった。
さらに、そもそも問題を間違ってとらえてしまうことがある。
ここにその一例がある。
第二次世界大戦後、アメリカ軍は優秀な医師の早期退役に悩まされてきた。
多くの調査が行われ、多くの解決策が提案された。しかしそれらの調査は
すべて、問題は報酬にあるといういわば当然ともいうべき前提に立って
行われた。しかし本当の問題は医務官の昇進システムにあった。
それはあまりに一般医を重視したものであって、専門医を重視する今日の
医療界の実情と合わなくなっていた。軍の昇進システムは専門医を低く
位置づけていた。すべてが管理職に向かって上昇する構造になっていた。
研究活動や専門医療は出世コースからはずされていた。
したがって若い優秀な医師は、一般医さらには机に縛られた管理者として
時間と技術を無駄にさせられていると感じていた。
彼らは高度に専門化された医療技術を磨きそれを利用する機会を欲して
いた。
しかし今日にいたってもなお、軍は必要とされている基本的な意思決定に
取り組んでいない。「専門化された世界では通用しない医師による二流の
医療機関で満足するか」「軍の組織構造とは根本的に異なる方法で医務官の
昇進システムを再編成するか」という問いに答えていない。
この問題を重要な意思決定を要求する問題であると認めないかぎり、若い
医務官たちが折りあれば辞めていくという現在の状況が改善されるはずで
ある。あるいはまた、問題の内容が十分明らかになっていないために
間違うことがある。
● 過負荷
機械の可動部や電気回路・電子回路などに許容以上の負荷が加わる
状態。また、その負荷。
この続きは、次回に。