P・F・ドラッカー「創造する経営者」⑮
ある消費財メーカーでは、トップの三人が自社の製品Aを別々に定義して
いた。製品Aは、名の通ったブランド品で大量に売れていたが、季節性の
ある製品だった。しかし、製品Aの五分の四は、単品としてではなく
季節性のない製品Bとのセットで売っていた。
セット価格は、それぞれの製品を別に売った場合の合計額の四分の三に
設定していた。そしてAを買えばBが半値になると広告していた。
このような状況から、財務担当のトップは、製品Aが製品であって主力
製品であると考えていた。帳簿上、値引き分は製品Bの売上げに計上して
おり、製品Aが高い利益率を誇る形になっていた。
したがって彼は、製品Aに力を入れ、増産し、販促費を増額すべきであると
主張した。販売店も同じ考えだった。しかし生産担当のトップにとっては
製品Aは製品でさえなかった。製品Aは、製品Bの売上げが落ちそうなときに
製品Bへの需要をつくり出すための販促品にすぎなかった。
製品Aに期待することは、製品Bの生産を安定させコストを引き下げる
ことだった。そもそもこれが製品Aの開発の目的だった。
彼にとっては、特に製品Aの生産量を多くする必要などなく、単に製品Bの
売上げ増をもたらしてくれるだけで十分だった。したがって彼は、製品Aの
価格を下げ、製品Bとのセットの売上げを伸ばすべきであるとして、製品Bの
販促に力を入れるべきことを主張した。
そして三人目のマーケティング担当のトップにとっては、セットそのものが
製品だった。それだけが現実の独立した製品だった。
彼はセット販売を促進しようとした。彼の悩みは、セットの利益率が低い
ことだった。加えて彼は、製品Bの地位を守るために、セットの値引き分を
製品AとBの両方に均等に負担させようとしていた。
しかしこの案に対しては、二人の同僚がそれぞれの理由から反対した。
ソロモン王といえども三人のいずれが正しいかは決められない。しかし
いずれかの道は選ばなければならない。
これと同じ問題は、独自の最終用途と市場をもつ複数の製品が生産プロ
セスから不可避的につくられるとき必ず出てくる。
正規製品、すなわちプラスチック、殺虫剤、医薬品、染料などは、その
すべてを一つの製品と見るべきなのか。それらの原材料は、原油を精製
する際にほとんど不可避的に生産される。それらのうち何をどれだけ生産
するかは、石油精製業者ではなく原油の組成が決める。
同じ問題はとうもろこしにもいえる。澱粉、接着剤、油脂が必ず生み出
される。
あるいはもっと簡単な例として、機能的に同じだが、多様なサイズ、形状、
色彩の製品は、すべてをまとめて一つの製品と見るか、別の製品と見る
かという問題がある。マーケティング、生産、そして財務分析のそれぞれの
論理が、それぞれの答えを出すに違いない。
この続きは、次回に。