P・F・ドラッカー「創造する経営者」⑲
大衆消費財以外の消費財メーカーは、小売店を流通チャネルとしてだけ
見ている。顧客とまでは見ていない。家電などの産業でディーラー関係の
問題が慢性化している原因がここにある。
逆に、生産財メーカーは、顧客が流通チャネルであることに気づいていない。
製紙会社や製パン会社などのユーザーを顧客としてだけ見ている。
しかし、生産財のユーザーは、製紙用のモーターや接着剤、製パン用の
甘味料を自分の市場や顧客や最終用途のために購入しているのであり、
流通チャネルの機能を果たしている。
製鋼プロセスでしか使われない化学製品ならば、その売上げは、鋼材の
売上げ如何にかかっている。
もちろん、製鉄会社が他社から購入したりほかの化学製品を使うことに
なれば、仕事はなくなる。顧客としての製鉄会社を失ったために仕事が
なくなる。しかし、たとえ製鉄会社がその化学品を気に入っていても、
製鉄会社自身が市場を失うならば同じように事故とはなくなる。
生産財メーカーの顧客たる製パン会社などのメーカーは、二つの役割を
演ずる。純粋の顧客であるとともに純粋の流通チャネルである。
そしていずれの役割においても、生産財メーカーにとって致命的に重要な
存在である。
例えば合成繊維のメーカーは、服地や衣服のメーカーである顧客のそれ
ぞれの市場における業績に対し重大な関心をもたざるをえない。
そして最後に、先進国、発展途上国の如何を問わず、現代の経済においては、
流通チャネルは技術よりも速く変化する。顧客のニーズや価値観よりも
速く変化する。流通チャネルに関する意思決定よりも速く変化する。
顧客のニーズや価値観よりも速く変化する。流通チャネルに関する意思
決定のうち、五年経っても陳腐化せず、新しい考え方や根本的な変化が
必要にならないものはない。
市場に対してもまた、流通チャネルに対してと同じように注意を払う。
市場の分析は、製品の分析よりも多くの洞察を与える。好ましからざる
現実も明らかにする。
しかし、企業の分析はまず製品の分析から入るべきである。
分析のプロセス、目的、構造、有効性の証明は、流通チャネルや市場の
分析ではなく、業績をもたらす領域として最も馴染みのある製品の分野に
よって確率しなければならない。だが大規模小売店の場合は、顧客の消費
行動の分析から入るべきかもしれない。よく行われている商品別の分析
ではあまり多くは明らかにされない。金融のスーパーマーケットである
市中銀行の場合も、金融サービス別の分析ではなく顧客の分析から入る
べきであろう。
以上述べてきたことには一つだけ大きな例外がある。大企業において事業
単位がいくつかの完全なまとまりになっている場合には、それらの事業
単位はそのものから分析をスタートさせてよい。
そのような事業単位は、製品や製品ラインあるいはサービスの業績よりも
現実に近いものを把握できるからである。事業全体に投入された資源を
把握するほうが現実に近いものを把握できるからである。
業績、資源、投資を大きな誤差なく把握できるからである。
そのような場合には、個々の製品に対する投資は推測さえできない。
ひとまとまりの事業単位としての分析したほうが、責任も明確にしやすく
目標も設定しやすい。実は、このようなまとまりの事業単位として分析
したほうが、責任も明確にしやすく目標も設定しやすい。
実は、このような考え方が組織の分権化の論拠である。
しかし、そのようなひとまとまりとしての事業についての分析のあとでは、
必ずその事業を構成する製品、市場、流通チャネルという業績の三大領域に
ついて、個別の分析が必要である。しかも、その後再び、事業全体についての
総合的な分析が必要である。そしてしかるのちに、再び高度の洞察と理解の
ものに製品についての分析を行うこととなる。
この続きは、次回に。