P・F・ドラッカー「創造する経営者」㉑
□ なぜコスト会計を使わないか
コストが作業量に直接比例することは驚くべきことではない。
● 五万ドルの取引は、五○○ドルの取引と、コストはあまり変わらない。
一○○倍はかからない。
● 売れない製品の設計も売れる製品の設計もコストは同じである。
● 小口注文の処理と大口注文の処理もコストは同じである。
受注、日程管理、請求、集金のいずれも作業は同じである。
● さらに、小口注文の包装、保管、出荷のコストさえ大口注文とほとんど
同じである。小口注文で時間が短くてすむのは生産だけである。
しかし、生産のためだけに発生するコストは、近代工業においては
きわめて小さい。そして生産以外では時間や手間は小口注文も大口
注文も同じである。
しかし、それでもなお、なぜコスト会計を基礎に分析しないのかという
疑問があるかもしれない。コスト会計は正確なコストを教えてくれるだけ
ではないか、というのである。だが製品コストが事業の総コストに占める
割合を計算するためにコスト会計を使うことは間違いである。
コスト会計では一セントの支出も記帳しなければならない。したがって、
あるコストがどの製品の生産のために支出されたかを明らかにできない
とき、それらのコストは全製品に配賦される。しかし、それは間接費は
すべて直接費あるいは売上高に比例して発生するという前提があって初めて
行いうる。その額が、総コストのわずか一、二割であるかぎりは問題は
ない。五○年前がそうだった。
しかし今日、総コストのきわめて多くの部分が直接費ではない。
すなわち、製品を生産するときにのみ発生し生産高に応じて増えるもの
ではない。直接費は外部から購入した原材料と消耗品だけである。
いわゆる直接労務費でさえ、今日では生産高に比例して変動はしない。
工場で何を生産しようと直接労務費はほとんど変化しない。ほとんどの
製造業およびすべてのサービス業において、労務費は生産高ではなく時間に
関わるコストである。つまるところ、今日では生産高とともに変動する
直接費として扱えるものは、原材料費を除けば総コストの四分の一以下で
ある。
もちろんこれらの事実は、コスト会計上は重要でないかもしれない。
間接費を生産高や生産量に比例させて配賦しても、製造費や仕上げ費など
製品そのもののコスト要素間の比率は実質的に歪められない。すなわち
コスト会計の数字はコスト要素間の関係に不都合があればそれを正しく
教えてくれる。しかし、特定の製品のコストを知るには、コストのうち
膨大な部分が比例配分によって決定されているような数字は役に立たない。
なぜなら、コストがどれだけかかっているかについてコストの配分という
形での判断がすでに行われてしまっているからである。
しかもコスト会計の数字は、コストが正規曲線に従って発生するという
最も起こりえない状況を想定している。
この続きは、次回に。