P・F・ドラッカー「創造する経営者」㉜
□ 資源はどこにあるか
若干先へ進みすぎたかもしれない。なぜならば、これこれの製品は限界的な
存在であるとしたり、これこれの製品は現在の地位を維持するうえで技術
サービスなど何らかの手当てが必要であるといえるためには、製品分析の
次の段階の結果を見ておかなければならないからである。
次の段階とは、基幹的な資源の配分についての分析である。
ここまでは、企業やその製品に起こっていることを中心に分析してきた。
しかしついに、企業が何かを起こすために行うことについて分析する
ところまで来た。
企業にとって、基幹的な資源は二つしかない。一つは知識という資源、
すなわち購買、販売、アフターサービス、技術、マネジメントの人材で
ある。そしてもう一つは、資金である。これらの希少かつ高価な資源は、
何に使われているか。業績をもたらすいかなる領域に使われているか。
機会と問題のいずれに使われているか。重要かつ将来性のある機会に
対して使われているか。
表3・表4は、ユニバーサル・プロダクツ社における資源配分の分析で
ある。
資源配分はきわめて大きなインパクトをもつ。あるいはもたなければ
ならない。強力な企業と弱体な企業を分けるものは技術的な専門家である。
営業陣やアフターサービス陣である。さらにはマネジメントである。
そして彼らの知識、動機、方向づけである。
企業がもっている資源には、その使い方を比較的短期間に動かせるものが
ある。知識労働者と運転資金である。それらの資源は管理可能な資源で
ある。
これに対し設備投資は、ひとたび投資の決定を行ったあとでは動かしにくい
資源となる。しかし、それら動かせる資源はあまりに管理が容易である
ために、正しく管理しなければ必ず間違って管理してしまう。
転用の容易性のゆえに、状況からの圧力や緊急事態の影響を受けやすく、
しかも勝手にさまよいだす。
「最も利益をあげて製品を生産中のあの工場を使って、半年間だけこの
問題のある製品を生産することにしよう。半年後にも、あの優良製品の
ほうがまた利益をあげてくれるに違いないから」とは誰もいわない。
しかし、「明日のための重要な新製品を設計しているあの最高の技術者を
使って、半年間だけ、この陳腐化した古い製品の手直しをさせることに
しよう」とはいえるし、常にいっている。あるいは「あのうまくいって
いる新製品の販促費の一部を引き揚げて、陳腐化してしまいそうなこの
古い製品のための特別キャンペーンを行うことにしよう。
新製品は、どうせうまくいっているのだから」ともいっている。
資源の間違った使い方は、値引き、取扱説明書、包装、広告など、同じく
管理可能なほかのコストについても起こる。
全国ブランドの家庭用品を生産、販売しているある消費財メーカーでは、
どうひいき目に見ても失敗している四つの製品に、広告費の四分の三以上を
使っていた。他方、利益の大半をもたらし、最高の市場をもち、最大の
成長余力があり、市場においてリーダーシップを握っている四つないし
五つの製品には、広告費を断続的にしか割り当てていなかった。
それらの製品こそ全広告活動の中心に位置づけるべきだった。
知識労働者に関しては、人数はあまり意味がない。質のほうがはるかに
重要である。運転資金や販促費もまた、その質、つまり何に使うかが、
少なくとも金額と同じように重要である。
したがって、予算の金額や人間の数など、定量的な基準には限られた意味
しかない。割り当てた資源の質とそれらの用途や目的を明らかにするための
詳細な分析が必要である。
私が知っているある一流研究所の所長は、「有能な研究者総数の平方根に
比例してしか増えず、卓越した業績を持続的にあげる卓越した研究者は、
総数の立方根に比例してしか増えない」といっている。すなわち、卓越
した業績を持続的にあげる研究者を三人から(三・三倍の)一○に増やす
には、研究者の総数を三○から(三・三の三乗倍の)一○○○人に増やさなけ
ればならない。
工場の機械工にせよ、病院の医師にせよ、あるいは大学の教授にせよ、
卓越した業績をあげる者の数は、総人員数に対し比例的には増えない。
営業部長、技術部長、経理部長、学部長はみな、一人の一人前の部下を
手に入れるには、多くの新米を雇い、訓練しなければならないことを
知っている。
管理可能なコストが何に支出され何に投資されるかが大きな差を生む。
故障した製品のための膨大なスペア部品の在庫も、大きな需要のための
膨大な完成品の在庫も帳簿上は同じに見えるが、経済的な意味はまったく
違う。
同じように販促費も、自社の従業員に製品の使用法を訓練してほしいと
いう熱心な顧客のニーズに応えるために使われている場合と、製品に対する
クレームに対処するための値引き隠しに使われている場合では、当然大きな
違いが出てくる。
したがって、それらの資源の質についての分析や配分についての分析は、
成果をもたらす領域としての製品の理解において欠くことのできない
情報である。
例えば、製品Eに関わる人材は、表3の人材の配分に関する分析によって
明らかにされている。すなわち、マネジメントによってではなく現場の
アフターサービス陣によってマネジメントが行われているという事実が
明らかにされている。なお、製品Hも、もし人材や資金に対する配分が
この分析の結果と異なり、十分でなかったとするならば、まったく異なる
解釈しなければならないことになる。
換言するならば、資源配分に関する分析は、企業を理解し、診断し、行動に
関わる意思決定を行ううえで、必要にして不可欠なステップである。
知識や資金という資源については、成果をもたらす領域への配分のほか
にも知るべきことは多い。
しかし、まず何よりも初めにそれらの資源が実際にどのように配分されて
いるか、およびそれらの資源が業績といかなる関係にあるかを知らなけ
ればならない。
この続きは、次回に。