お問い合せ

P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊻

第四に、企業の現実を理解するには、成果をもたらす領域すべてを視野に

入れなければならないのと同じように、コスト管理の成果をあげるには、

事業の全体を視野に入れなければならない。さもなければコストの他への

押しつけに終わる。コスト削減の大成功の数か月後には、事業全体の

コストはさして変わっていないことが明らかとなる。

例えば、生産部門でのコスト削減キャンペーンは、輸送部門や倉庫部門への

コストの押しつけによって行われる。あるいは、在庫管理部門のコスト

削減は、資材供給の不安定を招き生産部門の余分のコストを発生させる。

原材料のコスト削減は、加工のための時間、速度、コストに悪影響を

与える。これらの例はほとんど際限がない。

 

第五に、コストとは経済の概念である。分析の対象たるコスト構造は、

経済的価値を生むための全経済活動である。

コストとは、製品やサービスを購入しその効用を得るために、最終消費者が

支払うものである。しかしコストは、ほとんどの場合、経済的ではなく、

法的に、すなわち個別企業という特定の法的存在の内部において発生する

ものとしてのみ定義されている。その結果コストの大半が見えなくなって

いる。だが、製品やサービスのコストの三分の二は、企業の外部で発生

している。メーカーの手元において発生するコストは、消費者が支払う

コストのうちせいぜい四分の一である。残りは、原材料費、設備費、

流通費である。

しかも、流通費の場合は、卸売業や小売業という法的に独立した別の企業で

発生している。さらに、デパートなどの小売業者にしても、商品全体の

コストのうち自らはわずかな部分を発生させているにすぎない。

そのコストの主たる部分は、商品の仕入れコストである。

しかし、消費者にとって重要なのは、全体のコストである。

コストが、原材料から最終製品にいたる一連の経済連鎖のどこで発生して

いるかはまったく関心のないことである。消費者にとっての関心は、得る

ものに対する支払の総額である。

したがって、そのような経済連鎖を構成する法的存在のいずれか一つの

内部で発生するコストに限定したコスト管理では、コストは管理しきれ

ない。少なくともコスト全体の把握と理解が必要である。

実のところ、コストの定義は、消費者の購買行動さえ超えたものでなければ

ならない。誰も、単に物を買っているのではない。満足と効用を買って

いる。したがって経済上のコストは、消費者が購入したものから満足と

効用を引き出すために必要とする管理、修理、利用に関わるすべての

コストを含む。

しかし、購入後の管理費が安くすむならば、高い価格でも買うというわけ

ではない。購入価格こそが価格であって、あとの管理費のことは考えない

という客もいる。

例えば、アメリカとイギリスの地方自治体は、公債による借り入れに

ついては厳しい制限が課されているが、予算の編成については大きな

権限を与えられている。そこで、公債で賄うべき購入価格が安ければ、

あとで払う管理費が高くとも税収で賄えばよいため購入できる。

法が経済的に不合理な行動を強制している場合には、経済の論理といえ

ども無視される。

 

この続きは、次回に。

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