P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿
原材料費もまた、ほとんど常に大きなコストセンターである。
原材料費は、効率的な大店舗小売業者が商品を探し、選び、仕入れるときの
考え方と方法で扱わなければならない。よいものを安く購入するだけでは
不十分である。原材料のコストはあまりに大きい。したがってその選択は
製品設計の一部として捉えなければならない。
メーカーは、自らが原材料や部品の流通チャネルでもある。
原材料や部品は製品に適合させなければならない。
あるいは製品を原材料や部品に適合するよう設計しなければならない。
生産と流通のプロセスの全体の中で、最もコストの安い原材料から最高の
製品を得るべく、原材料と製品を結びつけなければならない。
購買に代わって資材管理という言葉が使われるようになった背景がここに
ある。しかも資材管理のためにはすべてに多くの手法が開発されている。
例えば、製品の各部品について「この部分が機能するための最もやすい
方法は何か」を追求するVE(価値工学)が、その一例である。
特に自動車メーカーのように大量の部品を購入している企業では資材管理が
進んでおり、すでに設計と購買を統合してしまっている。
しかし、いまだにほとんどメーカーが、大店舗小売業者が数十年前から
理解していることを理解していない。
いかにうまく売っても、下手な買い方を補うことはできないことを知ら
ないでいる。
これらのコストとは対照的に、物質そのものの構成、形状、配置、外観を
変えるためのコスト、すなわち生産費は、コストセンターとしてはさして
大きくない。
生産費は、コスト管理の体系的な努力が昔から継続的に行われてきた唯一と
いってよい領域である。しかしほとんどの産業において、すでに純粋の
生産費は総コストのごくわずかな部分となっている。これ以上の大幅な
コスト削減には本格的な技術革新が必要なほどである。
今後そのような技術革新は、オートメーション化のような生産工程全体の
革新、すなわち仕事そのものの方法、仕事やものの移動、生産工程全体の
革新、すなわち仕事そのものの方法、仕事やものの移動、生産工程に
おける情報と管理についての高度の機械化によって実現される。
しかし逆に、そのような技術革新は、生産工程の分散化によって実現される
場合もある。アルミ圧延や製紙のような装置産業では、技術革新は製造と
仕上げのプロセスを分離することによって実現された。
例えばアルミ圧延工場では、圧延と裁断、着色、成型を切り離した。
同じように製紙工場では、製紙と、コーティングや裁断などの仕上げの
工程を切り離すことによって技術革新を行った。いずれの場合において、
在庫が完成品から半製品に変わるとともに在庫の大幅減が実現した。
しかも顧客の注文に応じやすくなった。
さらには、最も大きな革新が、新設同様の工場を閉鎖してしまうことで
ある場合さえある。規模、立地が間違っていたかもしれない。
あるいは、そもそも新工場が不要だったのかもしれない。
生産費の最も大きな削減は、伝統ではなく経済論理に従い、生産工程を
再組織することによっても実現される。製紙工場は、パルプの最適利用を
中心に設計されている。しかしパルプは、基礎的な原料の一つにすぎない。
熱にも高いコストがかかる。紙を白くしたり、不透明にしたり、印刷しや
すくするための化学品にも高いコストがかかる。
もちろん、製紙のプロセスを、パルプを安くかつ速く紙に変換するプロ
セスとしてではなく、熱と化学品を効率的に利用するプロセスとして組織
した場合には、製紙の経済学を大幅に変えなければならないことになる。
生産工程を、原材料間のバランスにおいて再組織するというこの考え方は、
ほかの産業の生産工程にも適用することができる。
これらの革新抜きでは、いかなる企業、いかによく管理された工場でも、
生産費削減の努力から得るところはあまりない。それにもかかわらず、
実際には削減された技術者たちが日常的に生産費の削減に動員されている。
そしてあまりに多くのマネジメントが、単に生産費の日々の変動を分析
することによってコスト管理を行っているつもりになっている。
この続きは、次回に。