P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-7
(4) 浪費的コスト
浪費的コストについては、ほとんど分析の必要はない。
通常、何も成果を生まないコストは明らかである。
もちろんそれらのコストについて何ができるかは別の問題である。
しかし発見の難しい浪費的コストがある。
特に無為のコストは数字に出てこない。
もちろん、空荷のタンカーや乗客のいないジェット機のように、明らかに
無為の状態にあるものは別である。
しかし海運会社は、長い間、自分たちの主たるコストが輸送中のコスト
ではなく港でのコストであることに気づかなかった。
港でのコストは間接費として扱っていた。
そのため、船の設計や安いコストで速く運航することに重点を置いていた。
しかし、すでに安くなっている運航コストをさらに引き下げることは、
港でのコストをさらに高くすることにつながっていた。
荷役にさらに時間がかかるようになっていた。
浪費的コストは巨額である。つまるところ人間はあまり効率的ではない。
だが、浪費的コストの発見には特別の努力が必要である。
実は、無為のコストの大きさは経理の数字からわかる。
間接費が生産的コストの三分の一を超える場合である。
そのような場合には隠された浪費的コストがあると見てよい。
また、経理上の間接費と、既述の作業量による配分コストの数字が大きく
異なる場合である。しかし、浪費的コストを発見するための最良の方法は、
それを意識的に探すことである。特に、「何もせず、いかなる成果も
あげずに、時間や資金や人間を使っているのはどこか」を問うことで
ある。
浪費的コストを生む活動に対する一つしかない。
そのような活動はやめることである。
このことは、ユニバーサル・プロダクツ社が一万社の小売業者のうちから、
三○○○社の小口の小売業者を切ることによって、多額の無為のコスト
すなわち利益なしのコストをなくすことができたように、そうしたる
労力を割くことなしに行える場合もある。
しかし多くの場合、浪費的コストの活動は切ることが難しい。
事業全体の再設計が必要になることもある。
さらに慣行、設備、経営方針の根本的な変革が必要になることも多い。
例えば、旅客機の空席を埋めるには、路線や運賃を変えたり新しい客層の
開拓のための販売促進を行わなければならない。
設備の遊休時間をなくすには、設備管理、日程管理、在庫管理について
新しい手法を導入しなければならない。貨物船の有給時間をなくすには、
貨物船の加工船への改装が必要になるかもしれない。
これらのコスト管理やコスト削減の手法は、従来のものとは異質である。
息の長い大がかりな仕事である。
例えば最大の浪費的コストは事業に対する各種の制約である。
しかし、それらの制約こそ、実は機会とすべき潜在的な可能性を意味する。
一律的なコスト節減はもちろんコスト削減キャンペーンの多くは、浪費的
コストに手をつけてもいない。しかしあらゆる企業において、浪費的コスト
こそ真のコストセンターである。
コスト管理には、業績をもたらす領域の管理や資源と同じように、組織的
かつ体系的なアプローチが必要である。かくして、何に取り組み、何に
手をつけ、何を目標とするかについて、コストの流れの分析が明らかに
してくれるものもまた、事業全体についての理解の一部であり、事業を
真に成果をあげるものとするため包括的なプログラムの一部となるもので
ある。
この続きは、次回に。