P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-11
(3) 競争相手は同業他社にとどまらない
この法則には準則がある。直接の競争相手と見做している製品やサービスが、
本当の競争相手であることは稀である。通常、競争相手をあまりに広く、
あるいは逆にあまりに狭く定義している。
ロールスロイスやキャデラックなどの高級車は低価格車と競争関係に
あるのではない。交通手段としていかに優れていようとも、高級車を
買う者が買っているものはステータスである。
顧客が買うものは満足であるという事実から、あらゆる製品とサービスが
突然、まったく異なる生産、流通、販売のされ方をしている他産業の製品や
サービスと競争関係に置かれる。まったく異なる機能や形態だが、しかし
得られる満足は同じ種類のものであるという製品やサービスと激しい
競争関係に置かれる。
例えばキャデラックがミンクの毛皮や宝石や豪華リゾートでの休暇などと
顧客の金を争っていることは、誰もが知っている数少ない例である。
ボーリング場の設備メーカーの主たる競争相手は、同業他社ではない。
彼らがつくっているものは、運動設備である。しかし顧客が買っている
ものは運動である。所有するものではなく、行うことである。
したがって、彼らの競争相手は、急速に増加しつつある豊かな都会人の
自由時間に答えるすべてのもの、すなわち、ボート漕ぎ、芝生の手入れ、
大学の夜間講座である。
実は、ボーリング場の設備メーカーが、最初にこの自由時間市場の存在に
気づき、最初に新しい家族ぐるみの活動を促進したことが、一九五○年代の
あの大成功を収めさせたのだった。
しかし彼らが、活動の満足に対する供給者を競争相手と定義せずに、
同業他社だけを競争相手と定義したことが、六○年代以降のあの不振の
原因となった。
明らかに彼らは、ほかの活動が自由時間市場を侵食しつつあることに
気づかなかった。従って彼らは、自由時間市場において、明らかに昨日の
製品になりつつあったボーリングに代わるべきものを自ら開発していく
必要に気づかなかった。
時には、直接の競争相手の行動さえ見落としてしまうことがある。
例えば、大手化学品メーカーの多くは、その情報収集能力にもかかわらず、
あたかもこの世には競争相手が一社も存在しないかのように行動した。
一九五○年代の初め、最初の量産プラスチックたるポリエチレンが市場に
おける地位を確立したとき、アメリカの大手化学品メーカーの全てが
一様に膨大な潜在成長力を認めた。全メーカーが市場の成長を予測した。
しかし、自社に明白なことが、他社に気づかれないわけはないということを
認識していたものはなかったかのようだった。彼らはみな、他社による
生産能力増はないものとして、自社の設備計画を立てた。
事実、ポリエチレンの需要は、当時の最も大胆な予測をも超えて急速に
増大していった。しかし、あらゆるメーカーが、需要の増大分のすべてを
自社で獲得するという想定のものに設備を拡張したため、今日では稼働率
五○%という設備過剰と価格破壊がもたらされたままとなっている。
この続きは、次回に。