P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-12
(4) 質を決めるのは企業ではない
もう一つ準則がある。すなわち生産者や供給者が、製品の最も重要な特色と
考えるもの、すなわち製品の質が、時として顧客にとってまったく意味が
ないということである。
メーカーの考える製品の質とは、単に生産が難しくコストがかかっている
だけという場合が少なくない。しかし顧客はメーカーの苦労には動かされ
ない。顧客の関心は「この製品は自分のために何をしてくれるか」だけで
ある。当然である。
メーカーにとって、この事実は、受け入れることはもちろん理解すること
さえ難しい。それがいかに難しいかは、広告のコピーに示されている。
広告の多くが、その製品をつくることがいかに複雑で困難かを強調して
いる。「この製品をつくるには、わが社の技術者は、自然の法則を一時
停止させなければならなかった」と繰り返す。
しかし、顧客の反応は、せいぜいのところ広告の意図とは逆となる。
「それほどつくるのが難しかったのならば、うまく動かないのではないか」
(5) 顧客の合理的である。
顧客は合理的である。不合理であると考えるのは危険である。
それは、顧客の合理性がメーカーの合理性と同じであると考えたり、
同じでなければならないと考えるのと同じように危険である。
アメリカの主婦は、食品を買うときと口紅を買うときとでは、別人のように
行動することから、心理学のたわごとが並べられている。
一家のために毎週食料を買い入れる主婦は価格を意識する。
五セント安い特価品があれば、馴染みのブランドも見捨てる。
当然である。主婦は、専門家すなわち一家の総支配人として食料を買う。
しかし、口紅をそのように買う女性と結婚したいと誰が思うだろうか。
まったく異なる二つの役割において、同一の基準を使わないことこそ、
合理的な人間にとっての唯一の合理的な態度である。
メーカーや供給者は、なぜ顧客が不合理に見える行動をするのかを知ら
なければならない。顧客の合理性に適応すること、あるいは顧客の合理性を
変えようとすることが、メーカーや供給者の仕事である。
しかしそのためにはまず、顧客の合理性を理解しそれを尊重しなければ
ならない。
この続きは、次回に。