P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-14
(8) 市場や用途から顧客を特定する
しかし、企業や業界が顧客を識別できない場合にはどうすべきか。
顧客と呼びうる特定の個人や集団を持たない企業や業界も多い。
あらゆる種類のガラスを生産している大手ガラスメーカーにとっては、
誰が顧客か。ガラスメーカーは、自動車のガラスから収集家用の高価な
花瓶まで、あらゆる者にガラスを売っている。
したがって、特定の顧客も特定のニーズも特定の期待もない。
同じように、製紙会社が包装用紙のための原紙を購入してもらう場合、
印刷業者、包装デザイナー、包装紙販売業者、包装用紙の発注会社の
広告代理店、発注会社の販売部門、デザイン部門のいずれもが、少なく
とも購入する原紙について拒否権をもっている。しかも誰一人として、
単なる紙を購入しようとしているのではない。そして購入の決定は、
包装の形状、コスト、大きさ、紙質についての決定を通じて間接的に
行われる。この場合顧客は誰なのか。
特に二つの種類の産業において、顧客を特定することがきわめて困難、
あるいは、まったく不可能である。
すなわち素材メーカーと、最終用途品のメーカーである。
素材産業は、原油、銅鉱石などでも原材料を中心として、ないしはガラス
製造、製鉄、製紙などでもプロセスを中心として組織されている。
したがって、製品は必然的に顧客ではなく原材料によって規定される。
他方、糊、ボンド、にかわ等の接着剤メーカーのような最終用途品産業
には、特定の生産プロセスや原材料がない。接着剤は、とうもろこし、
じゃがいもなどでも植物性の物質、動物性の油脂、あるいは石油化学品
からも生産できる。しかも特定しうる顧客はいない。
接着剤はほとんどの産業で使われる。
鉄鋼メーカーや接着剤メーカーのように、誰もが顧客であるということは、
誰も顧客でないというのと同じである。
しかし、この種の産業にはマーケティング分析を使えないということでは
ない。素材産業や用途産業では、マーケティング分析は、顧客ではなく
市場や用途からスタートすればよい。
素材産業は市場を中心に分析すればよい。例えば、銅にはあまりに多様な
顧客がおり、あまりに多様な用途があって、顧客や用途からは分析が
不可能である。しかし、銅製品の何パーセントが建設市場向けであると
いう事実からは、意味のある分析を行うことができる。
他方、接着剤は、顧客や市場からは分析できなくとも、材料の表面間接着
という用途の本質から、意味ある分析を行うことができる。
この続きは、次回に。