お問い合せ

P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-15

□ 誰が、どこで、何のために買うのか

 

このように、外部からの事業の見方には、三つの側面がある。

すなわち「誰が買うか」だけでなく、「どこで買うか」「何のために

買うか」という視点がある。

あらゆる企業が、顧客、市場、用途のいずれかを中心に定義できる。

それらの三つのいずれが適切であるかは事業によって異なる。

したがって、いかなる事業のマーケティング分析においても、三つの側面

すべてについて検討し、最も分析に適した側面を見つけなければならない。

本書において、顧客、市場、用途という言葉がよく出てくるのも、その

ためである。

しかも、その結果きわめてしばしば次のようなことが明らかにされる。

 

● 例えば製紙会社における顧客や用途のように、不適切と思われる側面に

 ついての分析が実はきわめて重要である。

● 顧客、市場、用途のうちの一つの側面についての分析結果をほかの側面に

 ついての分析結果に重ねることによって、重大かつ実り豊かな洞察を

 得ることができる。

 

したがって、明確に特定しうる顧客が存在している場合においても、市場や

用途について検討することが望ましい。事実、そのような多元的な分析

こそが、誰のために、いかにして、いかなる種類の満足を適切に供給して

いるかを、自信をもって定義するための方法である。

そして、しばしば、企業の将来がいかなる要因と情勢にかかっているかを

知るための唯一の方法である。

市場の現実から言えることは一つだけである。すなわち、事業にとって

重要なことは、顧客の現実の世界、すなわちメーカーやその製品がかろう

じて存在を許されるにすぎない外部の現実の世界を知ることだという

ことである。

 

□ 予期せぬものを知るための九つの問い

 

もちろん、これらマーケティング分析における標準的な問いには、すべて

答えなければならない。

「顧客はだれか、どこにいるか、いかに購入するか」

「顧客は何を価値とするか、顧客のいかなる目的を満足させるか。

顧客の生活と仕事において、いかなる役割を果たすか。

顧客にとってその役割はどの程度重要か。例えば年齢や家族構成など、

いかなる状況のもとでその役割は最も重要か。逆に顧客にとっていかなる

状況のもとで最も重要でないか」

「直接あるいは間接の競争相手は誰か。彼らはいま何をしているか、明日

何をしているか」

しかし、本当に重要な問いは、次のような稀にしか提起されない問いで

ある。しかし、それらの問いこそ、われわれに予期せぬものを教えて

くれるものである。

 

(1) ノンカスタマー

 

「ノンカスタマー(非顧客)、すなわち、市場にありながら、あるいは

市場にあっておかしくないにもかかわらず、自社の製品を購入しない

人たちは誰か。なぜ彼らは顧客になっていないのか」

 

日曜大工用品メーカーの成功がよい例である。

市場調査の結果、そのメーカーの主な顧客は自分の家を初めてもった新婚

家庭であることが明らかになっていた。しかも彼らが、五年は熱心な顧客で

あるが、その後は遠ざかっていくことも明らかになっていた。

しかし彼らこそ家に最も関心のある層だった。手仕事をする体力もあった。

幼児を抱え平日の夜や週末はほとんど家で過ごしていた。

結婚後五年以上を経て顧客でなくなってしまった人たちを調べてみると、

彼らも顧客にしうることがわかった。彼らが顧客でなくなった主な原因は、

そもそも、そのメーカーが流通チャネルとして、彼らが買い物をできる

時間帯の中では、土曜の午前しか開いていない金物店を使っていたから

だった。しかもその土曜の午前でさえ、小さな子供をもつ父親には買い

物のしにくい時間だった。

そこでそのメーカーは、平日の夜、彼らが家族連れで買い物に出かける

ショッピングセンターに製品を置くことにした。同時に通信販売も始めた。

そして売上げを倍増させた。

日曜大工用品は、家をもって五年以上の家庭のほうが、買ってくれる人の

割合も少なく額も少なかった。しかし、そちらのほうが数としては初めて

家をもつ家庭よりもはるかに多かった。

 

この続きは、次回に。

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