P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-17
(4) 提供しうる価値
ここまで来るといよいよ決定的に重要な問いが出てくる。
「わが社の製品やサービス、あるいはわが社が提供しうる製品やサービスの
うち、本当に重要な満足を提供しているものは何か」
この点に関して、私が知っている最も創造力に富んだ例は中南米のある
ソフトドリンクのボトラーが行ったことである。
このボトラーは、いまのところまだ事業はうまくいっているものの、市場が
急速に飽和状態に近づきつつあることに気づいた。そこでこの会社は、
「五○年前、ソフトドリンクが国民に与えた満足に最も近い満足を与える
ものは、今日のわが国の社会において何か」と自問した。
その答えが、ペーパーバックの本だった。
国民はまだ貧しかったが、五○年で識字率が大幅に上がっていた。
しかし、まだ本は都会の数少ない書店で売られているだけだった。
今日の国民にとってペーパーバックこそ、五○年前の裸足のインディオに
とってのソフトドリンクのようにささやかな贅沢品となるはずだった。
しかも、商品化、大量流通、大量陳列、売れ残りの返品など、ペーパー
バックの抱える問題はほとんどソフトドリンクのそれと同じだった。
詰まるところ、このボトラーが自らの事業から学び取っていたものは、
ソフトドリンクではなく大量流通商品についての知識だった。
(5) 存在意義
さらになお、提起すべきいくつかの問いがある。
「いかなる状況が、わが社の製品やサービスなしでもすむようにしてしまうか。
あるいはわが社の製品やサービスなしにすまさざるをえなくしてしまうか」
言い換えるならば、「わが社は、顧客の経済、事業、市場の何に左右されるか。
経済性か。それとも豊かな社会における物からサービスへの流れか。
低価格から便利さへの流れか。それらの見通しはどうか。それらのうち、
わが社は、わが社にとって有利な要因を利用できるようになっているか」
である。
この続きは、次回に。