P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-64
○ 潜在機会の発見
あらゆる関係者が起こりえないと知っていることこそ徹底的に検討しな
ければならない。起こりえないことが、自社にとって何かを起こすための
大きな機会となる。
マネジメントは、実は、それらの新しい事態について、それらが起こら
ざるをえないことを内心知りつつ、脅威として見ているために起こりえ
ないこととしていることが多い。
発電所および変電所用の大型開閉器のメーカーは、一九五○年代の後半
まで、電流の開閉は機械的に行わざるをえないとしていた。
電子的な開閉は理論的に不可能であることを示す論文を発表したほど
だった。
しかしそのような視野狭窄的な態度によってもたらされたものは、ついに
電子開閉器が開発されたとき市場を失う危険にさらされたことだけだった。
不可能という彼らの主張を信じていたのは、彼らだけだった。
企業や産業にとっての脅威はすべて、市場、顧客、知識など環境の変化を
予告する。既存のもの、伝統的なもの、確立されたものに固執するならば、
あるいはほかのいかなることも不可能であると断定するならば、結局は
変化によって破滅させられるだけになる。
したがって変化こそ、利益をあげるために何かを行う機会としなければ
ならない。
この一○年来、アメリカの企業の多くは、ヨーロッパ市場と日本の興隆を
自社の売上げに対する脅威とみていた。
しかし、「それらの変化はいかなる機会を提供してくれるか」を自問した
企業は、逆にヨーロッパと日本に輸出を開始することによって、あるいは
子会社を設立したり現地企業を買収したりすることによって、大きな利益を
あげた。
潜在機会の発見とその実現には心理的な困難が伴う。確立された慣習の
破壊を意味するがゆえに内部の抵抗を受ける。
それはしばしば、その組織が最も誇りにしてきた能力の放棄を意味する。
実は脅威と戦い、アンバランスをやりくりし、固有の弱みをもつプロセスを
効率化するには、多大な労力を要する。しかし、昔から明らかにされて
いるように、たとえ成果は小さくとも、それらの問題を処理していくこと
ほど充実感をもたらしてくれるものはない。したがって、自社の弱みや
制約の中に機会を探すなどということは、それらの仕事を担当している
人たちの地位、誇り、力への直接の攻撃として怒りを買う。
これが、業界内のリーダー的な企業ではなく、業界外の、あるいは周縁部の
企業によって、機会が実現されていくことの多い理由である。
例えば、一○○年ぶりに製鋼の技術を変え、その基本的な経済性に影響を
与えることとなった純酸素上吹転炉は、伝統的な鉄鋼の中心地から遠く
離れたリンツにナチスが建てた製鉄所において、製鋼の経験のないオー
ストリア人によって開発された。
あるいは、電子開閉器は、開閉器生産の経験がない企業によって設計
された。
しかし、客観的にも心理的にも実現が難しいということは、逆にそこに
力を入れ、その重要性を強調し続けなければならないことを意味する。
潜在的な機会を発見し利用することこそ、存続と成長のための必要条件
だからである。
もちろんこのことは、あらゆる企業が、隠れた機会をもち、あるいは弱みを
機会に変えることができるということではない。
しかし、機会をもたない企業は生き残ることができない。
そして潜在的な機会の発見に努めたい企業はその存在を運に任せることに
なる。
● 視野狭窄
視野が縁のほうから、あるいは不規則に欠けて狭くなる状態。
緑内障・網膜剝離 (もうまくはくり) などでみられる。
この続きは、次回に。