P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-72
(5) 企業の内部
第五の領域として、企業の内部にも、すでに起こった未来を見つける
ことができる。そこにも、基本的かつ不可避的な変化であって、影響が
まだ現れていない事象を発見するための鍵がある。
その一つが企業内の摩擦である。何かを導入したとき揉め事が起こる。
新しい活動が組織内に変化を引き起こし、すでに受け入れられている
ものと対立する。すなわち知らずして急所に触れる。
アメリカの企業では、製品企画なる部局を、新しい職能すなわち新しい
仕事として設置しようとすると必ず摩擦が起こる。
どこに置くかが問題である。マーケティングに置くべきか、研究開発や
エンジニアリングにおくべきか。
しかし実際には、この対立は、この新しい職能をめぐるものではない。
それは、もしマーケティングに置くならば、ほかのすべての職能が二義的な
存在となり、しかも成果を生む職能としてではなく、コストセンターと
して位置づけられるであろうことが、浮き彫りにされてくるからである。
そしてそこから大掛かりな組織改革にまで話が進むに違いないからである。
単なる製品企画という一部局の問題に対し、激しい反応が現れるのは、
この組織改革に対する懸念が原因である。
AT&T(アメリカ電話電信会社)が一○年ほど前、商品化部門を新設した。
実際に影響を受ける者はいなかった。だがそれはマネジメントに大きな
動揺をもたらした。すなわち、その意味することは、七五年間AT&Tが
目的としてきたものが達成されたことを認めるということだった。
アメリカの全世帯および全企業に電話を引くという目的は達成されていた。
電話架設というAT&Aの市場は、ついに飽和に達した。
したがって、これからの成長は、新規加入の勧誘ではなく電話利用の増大に
よって図らなければならなくなっていた。このすでに起こった変化は、
電話事業にとって、機会とリスクが大きく変わることを意味した。
商品化部門の新設をめぐる動揺は、その最初の兆候にすぎなかった。
目的を達成した事業や活動は、大きな変化の時代に入る。
しかしそのような事業や活動に従事する者のほとんどが、その後も長らく、
すでに達成した目的をなお達成しようとして働く。
したがって、そのようなときこそ、すでに起こった未来という機会を発見
すべき時期にあることになる。
先進工業国では普通教育の目標は達成された。
しかし、それらの国では、今日にいたるも、義務教育年限の延長を最大の
課題としていた過去二○○年間において有効だった目標に基づいて考え、
行動している。
この新しい現実が受け入れられるには、世代の交代を必要とする。
そして、状況の変化を理解し、何が可能になり、何が必要になったかを
知る教育機関が、まずあすの教育のリーダーシップを握ることになる。
競争相手が、達成された目的をさらに達成すべく相も変わらず同じ努力を
しているとき、目的が達成されたことを認識し努力の方向を転換した
企業が、明日のリーダーシップを握る。
● 二義的
根本的でないさま。二次的。「―な問題とする」
この続きは、次回に。