P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-84
有効な定義のものに自らを定義できない企業は、やがてあるべき形を見失い、
マネジメントすることが不可能になるほどいろいろなことを行おうとする
ようになる。このことは、あまりに広い一般的な定義しかできずに、いかなる
領域における卓越性が必要かを特定できない事業についてもいえる。
電機産業や化学工業という定義では、あまりに一般的であって、五○年前、
六○年前は意味があったとしてももはや有効ではない。
運輸や通信もあまりに広すぎて意味をなさない。
そのようなあらゆるものを含む言葉でしか自らを定義することができないと
すれば、あまりにも多くのことを行なっているために何一つうまく行うことが
できない状態にあるとみてよい。
独自の意味ある構想をもつ複数の事業の統合体として、一定の知識と方向性と
目的をもって企業をマネジメントすることはできる。
しかし、対象とする市場や、その卓越性を適用すべき知識の領域がまるで異なる
ものの寄せ集めであるような企業は、マネジメントすることができない。
遅かれ早かれマネジメントすることが不可能となる。
そのような企業は、ひとたび経済的な業績や活力に関わる試練、すなわち景気
後退に遭うならば深刻な危機に立つことになる。
事業についての有効な定義をもてないことは危険信号である。
市場や顧客と無関係に事業を行なっていることになる。
さらには共通の知識や労力の相乗効果を実現する真の多角化ではなく、知識や
労力とは関係のない分散を行なっていることになる。
有効性という要件を満たさない事業の定義は、そもそもが間違った定義である。
しかしそれを知るための方法は経験しかない。
事業の定義とは、つまるところ本書に置いて繰り返し提起してきた三つの
問いに対する答えを集約したものである。
● わが社の事業は何か。
● わが社の事業は何でなければならないか。
● わが社の事業は何にならなければならないか。
事業の定義とは、目的を確立し目標と方向を設定すべきものである。
それはいかなる成果に意味があり、いかなる評価基準が真に適切かを定める
ものである。
この続きは、次回に。