P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-87
第13章❖事業戦略と経営計画
● 戦略的に意思決定すべき四つの領域
経営計画は次のことを決定しなければならない。
第一に、追求する機会、進んで受け入れるリスク、受け入れることのできる
リスク。
第二に、事業の範囲と構造、特に専門化、多角化、統合のバランス。
第三に、目標を達成するための時間と資金。新事業の設立と、買収、合併、
合弁とのバランス。
第四に、経済情勢、機会、成果達成のための計画に適合した組織構造。
○ 正しい機会とリスク
事業においては、リスクを最小にすべく努めなければならない。
だがリスクを避けることにとらわれるならば、結局は最大にしてかつ最も
不合理なリスク、すなわち無為のリスクを負う。
しかも無為の理由づけはいくらでも見つけられる。
リスクの有無を行動の基盤としてはならない。リスクは行動に対する制約に
すぎない。いかなる機会を追求できるかは、事業の経済的な分析から出てくる。
それらの機会を全体として検討し分類しなければならない。
機会には、「付加的機会」「補完的機会」「革新的機会」の三つがある。
・付加的機会
付加的機会とは、既存の資源をさらに活用するための機会である。
したがって付加的機会は事業の性格を変えない。
既存の製品ラインを新しい成長市場へと伸ばしていくことは、付加的機会で
ある。
例えば、製紙メーカーが印刷業者の市場から事務用コピー用紙の市場へと進出
することは、たとえ製品や販売方法は大幅に変ろうとも、付加的機会への取り
組みである。
付加的機会に対しては、高度の優先順位を与えてはならない。
付加的機会から得られる利益は限定されており、したがってそれに伴うリスクも
小さくなければならない。また、付加的機会が後述する補完的機会や革新的
機会の資源を奪うことがあってはならない。
・補完的機会
これに対し補完的機会とは事業の定義を変える機会である。
それは、現在の事業と統合して、それぞれが別個のものであったときよりも、
大きな総和をもたらすような新しい事業の機会である。
製紙メーカーが、紙とプラスチックを使用している包装加工業者を吸収合併
してプラスチック分野に進出することは補完的機会の利用である。
補完的機会を利用するにあたっては、常に、少なくとも一つの新しい知識に
おいて卓越性を獲得しなければならない。したがって補完的機会の利用には
客観的な自己評価を必要とする。すなわち、「わが社は新しい種類の卓越性を
獲得し、維持し、報奨するために、進んで自らを変える気はあるか」と自問
しなければならない。
ある大手機械メーカーが、プラスチック素材の成型加工について自社の研究所が
開発した最新技術を利用するため、有機化学と進出した。
しかしこのメーカーは、新設の科学部門を機械部門のようにマネジメント
しようとして、機械部門と同じ種類の人材を配置し、同じ仕事の仕方を続けた。
そのためプラスチック分野への巨額の投資にもかかわらず、利益をあげるどころか、
競争相手のために市場を創造するだけという結果に終わった。
そのメーカーは、結局はかなり大きな損失を出してその科学部門を整理せざるを
えなくなった。
補完的機会にはリスクが伴う。むしろリスクがないならばその機会は幻として
退けなければならない。したがって、補完的機会は、事業全体の富の創出能力を
数倍にしてくれるものでなければ機会とはいえない。
この続きは、次回に。