P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-92
○ 多角化のための統合、専門化のための統合
知識の大きな変化があったときにも事業の範囲は変えなければならない。
卓越性に変化があったときにも専門家のバランスは再検討しなければ
ならない。
多角化や専門化のための手段としては、合併が使われることも多い。
通常、川下統合、すなわち事業の範囲を市場に向けて伸ばすことは
多角化を意味する。
プラスチックの脅威を機会に転ずるために包装会社を吸収した製紙
メーカーは、プラスチック技術に深入りすることなく多角化するための
手段として、市場に向けての統合を利用した。
これと同じ例は無数にある。
これに対して、川上統合、すなわち市場から生産、あるいは生産から
原材料への統合は、専門化を意味する場合が多い。
世界中の大手アルミ製品メーカーが、多額の投資が必要であるにも
かかわらず、アルミ精錬という川上統合を進めてきた。
しかもアルミ地金は、戦時中を除けば不足はしていなかった。
だが、アルミ製品の生産における卓越性だけでは明らかに十分では
なかった。
川上や川下への統合は、経済プロセスの各段階の間で、コストや利益の
格差が大きすぎるときにも行われる。
例えばある製紙メーカーは、自らの収益力を高めるために紙の流通業者を
買収した。紙の流通業ではあまり資本が必要でないうえ、資本の回転率が
高いからだった。確かに好況時には製紙業のほうが利益率は高い。
しかし不況時には、紙の流通業のほうが損益分岐点が低いという理由
だけでもリスクが小さい。
したがって、統合の意思決定には、経済プロセス全体におけるコスト
構造と、コストの流れについての分析が必要である。コストと利益の
比が最も有利な経済プロセスの組み合わせが、最善の統合である。
ただし、統合には硬直性という代償が伴う。
これは、直営の印刷所をつくって川上統合した雑誌社が一様に経験した
ことである。印刷所をもつことは、印刷工程、発行部数、発行頻度、
雑誌の大きさなどの要素が縛られるということである。
それらの要素が変化しないかぎり、印刷所をもつことは業績の向上に
つながる。しかし、それらの要素が、長期にわたって不変であるという
ことはありえない。そのとき、いかに能率的な印刷所といえども、
利益ではなくコストをもたらすものへと変わる。
専門化や多角化や統合は、影響が大きいばかりではなくリスクも大きい。
したがって、それらの方法は、経済的な成果とリスクという二つの
基準によって判断しなければならない。
こうして決定された事業の形態と範囲は、事業の性格を一変させるほど
大きな成果をもたらすのでなければならない。
二足す二は、少なくとも五にならなければならない。そして、市場や
知識、製品やプロセスにおける変化によってもたらされるリスクは、
事業にとって負えるリスクでなければならない。
この続きは、次回に。