P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-93
○ 自ら築くか、外から買うか
事業の成長は主として内部からもたらされる。
したがって時間がかかる。しかし時間はある程度まで金で買える。
すなわち事業は自前で築かずとも買うことができる。
時間ばかりでなく知識も、なければ金に頼るしかない。
事業や製品ラインの売却、買収、合併、合弁に頼らざるをえない。
戦略としてはまず売却がある。売却は、事業や製品ラインが、ほかの
者にとっていっそうの価値があるときに検討すべき戦略である。
例えば、主たる事業の成長がある製品を取り残してしまった場合がある。
事業の中核が、単純な機械装置からコンピュータという高度に複雑な
電子技術に移行したIBMにとって、タイムレコーダーはもはや事業の
定義に合致しない事業だった。そこでIBMは、第二次世界大戦後、
この事業を売却した。
マネジメントの能力を超えて成長した事業もまた、売却すべき事業で
ある。この種の事業の典型は、一人の有能な人間によって創立され、
かなりの規模に成長した事業である。
その事業には、客観的に見てさらに大きな将来性がある。
しかしなぜか、いつになってもその将来性を実現できない。
理由は常に同じである。すなわちその事業は、すでに創立者やその家族の
理念、考え方、仕事の仕方に合わないところにまで成長してしまった
のである。
そのようなとき、マネジメントの人間が、ものの見方や考え方を変える
ことができないかぎり、事業は間もなく退化する。
マネジメントが事業の成長に適応できないため、いわゆる成長会社の
成長が軒並み鈍化したことがあった。
これが一九六二年春のニューヨーク株式市場の暴落の原因だった。
ウォール街は成長の魔力に酔い、成長会社の発掘に狂奔していた。
しかし、それらの成長会社は、中小企業の段階を超えて成長するための
マネジメントをもっていなかった。それゆえ市場の期待に沿えず、
揃って株価が暴落した。
事業の成功が要求するものにマネジメントが応えられず、成長できない
でいる。そのような原因で成長が止まった企業にとって、唯一の救済策が
売却という外科措置である。対して、自らの資源だけでは適性に規模に
成長できない企業のための手段が、買収と合併である(第10章参照)。
そのような企業は、自らの規模と、市場や技術が要求する規模との
格差から生ずる負担を賄うために、利益のすべてを注ぎ込まなければ
ならない。したがって直ちに必要な規模を獲得するには、ほかの企業を
買収するか、ほかの企業によって買収するかしか方法がない。
あるいは、ほかの同じように適正規模以下の企業と合併することに
よって、適正な規模に達するより方法がない。
二つの企業がパートナーとなって、第三の企業を設立するという合弁は、
しばしば二つの企業の知識を合わせて新しい機会に取り組むための最善の
方法となる。それぞれ自社だけで事業を築くにはあまりに時間がかかる。
例えば合弁は、欧米の企業が、日本のような文化の違う国で事業を行う
ための唯一の方法である。なぜならば、欧米の企業にとって、日本の
市場、伝統、日本語を学ぶには、あまりに年月を要するからである。
他方、日本の企業にとっては、技術や製品や生産工程の知識を自ら
学ぶにはあまりに年月を要するからである。
したがって、合弁のそれぞれのパートナーが、互いに独自のもので
貢献し合うことになる。それぞれのパートナーが、新しい市場、
すなわち欧米の親会社にとっては文化の違う市場、日本の親会社に
とっては技術や製品ラインの違う市場を開拓できることになる。
● 狂奔
ある目的のために夢中になって奔走すること。「資金集めに―する」
● 奔走
忙しく走り回ること。物事が順調に運ぶようにあちこちかけまわって
努力すること。「募金集めに―する」
この続きは、次回に。