お問い合せ

P・F・ドラッカー「創造する経営者」㊿-94

○ マネジメントなき財務的操作は不毛

 

時には買収が、専門化と多角化のバランスを図る最善の方法となる。

新しい能力や知識を取り入れるための最善の方法となる。

合併も、資源のアンバランスを強みや知識の源とするための最善の

方法となる。他方、売却は、古くなった製品ラインに利益を出させる

ための最も手早い方法である。

しかし実は、これら財務的な手段の利用は容易でなく、成功の条件も

厳しい。もちろん人材開発、組織開発、イノベーション、事業の方向

づけや見直しの代わりをつとめさせることはできない。

それらのものには、あくまでも内部の努力が必要であり、時間を必要と

する。しかも、時間を金で買うことは安上がりではない。

知識や資源、製品や市場に投入された時間を買うには余分のコストを

払わなければならない。したがって買収にしても、得られるものが

際立って大きくないかぎりコストに見合うものとはならない。

そのうえ時間を金で買うことは、その後意識的な自力による努力の

フォローがないかぎり成功しない。

 

その例が、財務的な手段による買収だけで築いたウィリアム・デュラ

ントのGMだった。しかし、デュラントが財務の力によってつくった

GMが生き残りうる存在となったのは、彼自身が追い出されたあとの

ことだった。すなわちスローンが引き継いで事業の定義を定め、マネジ

メント・チームをつくってからのことだった。

たとえ次々と優良企業を買収しても、それだけでは結果として破滅に

近いものしか手に入れられなかった。

 

事業をマネジメントせずに財務的な操作だけに頼るならば、必ず失敗

する。

財務的な手段を利用するには、むしろ自力で成長してきた場合よりも、

優れたマネジメントと困難な意思決定への意欲を必要とする。

財務的な手段は時間を節約する。しかし、何年もかかる成長と発展の

過程を一回の法律上の取引に集約するために、何年もかかる問題や

意思決定を短い期間のうちに集約する。

いかなる合併も、新しい大きな事業を自力で発展させた場合と同数の

問題、特に人間に関わる問題と、人間と人間の関係に関わる問題を

もたらす。

買収にしても、最初から完全に適合したものはない。

期待した成果を得るには、必ず何らかの調整が必要となる。

そして合弁の場合も、それが成功するには、逆にそれぞれの親会社に

対し、考え方や期待を変えさせなければならない。

財務的な手段もまた、企業のマネジメントのための手段である。

代替物ではない。

 

第二次世界大戦後、財務的な手段によって築いた企業の典型が、カリ

フォルニアを本拠とする科学技術志向の企業、リットン・インダスト

リーズだった。同社は一九五三年から六三年にかけての一○年で、

ほとんど無の状態から売上げ五億ドルの企業へと成長した。

すべて買収による成長だった。

しかし、このリットンをつくりあげたチャールズ・B・ソーントンで

さえ、「わが社は、技術の激しい変化に対応するため、急いで大きく

かつ強くならなければならなかった。しかし単に企業だけを買収した

ことはなかった。時間と市場、製品ラインと工場、研究陣と営業陣を

買収したのだ」と述べている。

財務的な手段は、それをマネジメントに従属させることによってのみ

成功させることができる。さもなければ、結局は何も買えずに金を

使っただけに終わる。時間など買えるわけがない。

 

この続きは、次回に。

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