「道をひらく」松下幸之助 ⑧
・是非善悪以前
この大自然は、山あり川あり海ありだが、すべてはチャンと何ものかの
力によって設営されている。そして、その中に住む生物は、鳥は鳥、
犬は犬、人間は人間と、これまたいわば運命的に設営されてしまって
いる。
これは是非善悪以前の問題で、よいわるいを越えて、そのように運命
づけられているのである。その人間の中でも、個々に見れば、また一人
ひとり、みなちがった形において運命づけられている。
生まれつき声のいい人もあれば、算数に明るい人もある。
手先の器用な人もあれば、生来不器用な人もある。
身体の丈夫な人もあれば、生まれつき弱い人もいる。
いってみれば、その人の人生は、九十パーセントまでが、いわゆる
人知を越えた運命の力によって、すでに設営されているのであって、
残りの一○パーセントぐらいが、人間の知恵、才覚によって左右される
といえるのではなかろうか。
これもまた是非善悪以前の問題であるが、こういうものの見方考え方に
立てば、得意におごらず失意に落胆せず、平々淡々、素直に謙虚にわが
道をひらいてゆけるのではなかろうか。考え方はいろいろあろうが、
時にこうした心境にも思いをひそめてみたい。
● 是非善悪
物事の正・不正、よしあし。 ▽「是非」は正しいこと(是)と正しく
ないこと(非)。 「善悪」はよいこと(善)と悪いこと(悪)。
物事の判断の基準として、それぞれ相対する語を重ねて使ったもの。
● 人知
人間の知恵。人間の知能。「―を尽くす」「―の及ぶところではない」
● 才覚
1. すばやく頭を働かせて物事に対応する能力。知恵の働き。機転。
「―のある人」
2. 工夫 (くふう) すること。また、すばやく頭を働かせて物事を処理
すること。「客の好みに合わせて料理を―する」
3. あれこれ苦心して金や物を手に入れること。工面 (くめん) 。
「―がつかない」「五〇万円ほど―する」
4. 学問の力。学識。才学。
「和漢の―の足らぬにぞありけん」〈神皇正統記・後醍醐〉
● 平々淡々
きわめて平らなさま。 また、何の変化もないさま。
この続きは、次回に。