「道をひらく」松下幸之助 ㉞
・時を待つ心
何ごとをなすにも時というものがある。時——人間の力を超えた、
目に見えない大自然の力である。いかに望もうと、春がこなければ
桜は咲かぬ。いかにあせろうと、時期が来なければ事は成就せぬ。
冬が来れば春は近い。桜は静かにその春を待つ。それはまさに、大自然の
恵みを心から信じきった姿といえよう。
わるい時がすぎれば、よい時は必ず来る。おしなべて、事を成す人は、
必ず時の来るを待つ。あせらずあわてず、静かに時の来るを待つ。
時を待つ心は、春を待つ桜といえよう。だが何もせずに待つことは僥倖を
待つに等しい。静かに春を待つ桜は、一瞬の休みもなく力をたくわえて
いる。たくわえられた力がなければ、時が来ても事は成就しないで
あろう。
時を得ぬ人は静かに待つがよい。大自然の恵みを心から信じ、時の来る
のを信じて、着々とわが力をたくわえるがよい。着々とわが力をたく
わえる人には、時は必ず来る。時期は必ず来る。
待てといわれればなおあせるのが人情である。だが、自然の理はわが
まま人情には流されない。冷たいのではない。静かに時を待つ人には、
暖かい光を注ぐのである。おたがいに時を待つ心を養いたい。
● 僥倖
「―を頼むしかない」「―にめぐりあう」
2. 幸運を願い待つこと。
「生死の境の中に生きることを―しなければならない運命」
● 自然の理に従う
「自然の理に従う」の意味は、「自然界の法則に任せて行動すること」
です。
自然界には「晴れの日もあれば雨の日もある」「健康な時もあれば
病気の時もある」など、人の力ではどうにもし難い現象があります。
この時に無理に科学の力や医学的な対処法などに頼らずに、自然に
任せるがままに行動することを言います。
この続きは、次回に。