「道をひらく」松下幸之助 ㊿+16
・恵まれている
人間というものはまことに勝手なもので、他人をうらやみ、そねむこと
があっても、自分がどんなに恵まれた境遇にあるか、ということには
案外、気のつかないことが多い。だからちょっとしたことにも、すぐに
不平が出るし不満を持つのだが、不平や不満の心から、よい知恵も才覚
もわきそうなはずがない。そんなことから、せっかく恵まれた自分の
境遇も、これを自覚しないままに、いつのまにか自分の手でこわして
しまいがちである。
恵みにたいして感謝をし、その感謝の心で生き生きと働いたならば、
次々とよい知恵も生まれて、自他ともにどんなにしあわせな暮らしが
できることか、思えば愚かなことである。
だが恵みを知ることは、そう容易なことではない。古来の聖賢が、恵み
を知れ、と幾方言を費やしてきても、実感としてこれを受け取る人は
どれだけあるのだろう。頭で理解はしていても、心に直接ひびかない
のである。そこに人間の弱さがある。
おたがいに修業をしよう。自分は恵まれているということを、直接、
自分の心にひびかすために、日常の立居振舞に、今一度の反省を加え
てみよう。
● そねむ
うらやみ憎む。ねたむ。「そねぶ」とも。
● 才覚
1. すばやく頭を働かせて物事に対応する能力。知恵の働き。機転。
「―のある人」
2. 工夫 (くふう) すること。また、すばやく頭を働かせて物事を処理
すること。「客の好みに合わせて料理を―する」
● 立居振舞
立ち振る舞いの意味は? 立ち振る舞いとは、人と接するときの身の
こなしや日常の動作、態度のことで、「立ち居振る舞い」とも言い
換えられます。 「立ち居振る舞い」の読み方は、「たちいふるまい」
です。2022/10/04
● 難事
処理するのに困難な事柄。むずかしい事実・事柄。⇔易事(いじ)。
● 一利
● 一得
・こわさを知る
こどもは親がこわい。店員は主人がこわい。社員は社長がこわい。
社長は世間がこわい。また、神がこわい。仏がこわい。人によって
いろいろある。
こわいものがあるということは、ありがたいことである。
これがあればこそ、かろうじて自分の身も保てるのである。
自分の身体は自分のものであるし、自分の心も自分のものである。
だから、自分で自分を御すことは、そうむつかしいことでもないように
思われるのに、それが馬や牛を御すようには、なかなかうまくゆかない
のが人間というもので、古の賢人も、そのむつかしさには長嘆息の体で
ある。
ましてわれわれ凡人にとっては、これは難事中の難事ともいうべきで
あろう。
せめて何かのこわいものによって、これを恐れ、これにしかられながら、
自分で自分を律することを心がけたい。
こわいもの知らずということほど危険なことはない。時には、なければ
よいと思うようなこわいものにも、見方によっては、やはり一利があり
一得があるのである。
● 御する
● 長嘆息
長いため息をついて嘆くこと。長嘆。
「不景気を伝える記事をみては―する」
この続きは、次回に。