お問い合せ

「道をひらく」松下幸之助 ㊿+17

・あぐらをかく

 

一日の精いっぱいの働きを終えて、わが家の居間にゆったりとあぐらを

かけば、心もくつろぐ、身もくつろぐ。だから、身を動かすのがつい

おっくうになり、家人から、とかく小言の一つも言われやすい。

わが家の居間ならそれもよいけれど、やたらにあちこちであぐらをかか

れたら周囲の人が迷惑する。じゃまである。

ましてや、自分の地位や立場にあぐらをかいて、仕事の本来の使命を

忘れ、自分自身のことにとらわれて、なすべきこともなさぬようなこと

があったとしたらじゃまや迷惑ですまなくなる。与えられた仕事が進ま

ないだけでなく、周囲の働きを遅らせて、ひいては社会の発展をも阻害

することになる。

人それぞれの地位や役割というものは、それぞれに担当している仕事を、

周囲の人びとと相協力して、よりすみやかに、より高く進歩させ充実

させてゆくことによって、人みなの繁栄に資するために与えられている

のである。そんなところであぐらをかいていて、いいはずがない。

おたがいに自分の仕事を、自分の役割を、もう一度よくかえりみたい

ものである。

 

・乱を忘れず

 

景気がよくて、生活も豊かで、こんな姿がいつまでもつづけば、まこと

に結構である。しかし、おたがい人生には、雨の日もあれば、風の日も

ある。

景気にしても好況のときもあれば、不況のときもある。いつも平和な、

いつも豊かなときばかりとは限らない。それが人生である。世の中で

ある。

ところが、世の中が落ちついて、ある程度景気もよくなり、生活も向上

して、いわゆる安穏な生活がつづくようになると、いつしか、この世の

中実体を忘れ、人生のあり方を忘れて、日を送る。

それですむなら、それでもよかろう。しかしいつかは台風が来、あるい

は不景気の波が立つ。そのときになっても、はたしてきのうに変わらぬ

泰然の心境でいられるか、どうか。

いついかなる変事にあおうとも、つねにそれに対処してゆけるように、

かねて平時から備えておく心がまえがほしいもの。

「治にいて乱を忘れず」である。

それがわかっていながら、しかもおたがいに今ひとつ充分でないのも、

これも人間の一つの弱点であろうか。

 

● 安穏

 

変わりがなく、穏やかなさま。無事。平穏。安泰。→あんおん

 

● 泰然

 

落ち着いていて物事に驚かないさま。

「―として構える」「―たる態度

 

● 変事

 

ふつうでない出来事。思いがけない事件異変。「―が起こる」

 

● 平時

 

変わったことのない時。平常。ふだん。「―の体温

 

● 治にいて乱を忘れず

 

平穏無事の世の中にいても、つねに乱世のことを考えて、準備をして

おかなければならぬという教訓

 

 

この続きは、次回に。

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