続「道をひらく」松下幸之助 ⑩
・仰ぎ見給え
仰ぎ見給え。あのすき通るような真冬の青空。どこまでもどこまでも
青く染まった果てしなき大空の深さ。思わず息をのむ。そんなとき、
天の声が聞こえる。フト天の声が聞こえる。
天の声は自分の声。自分の魂の声。何にも考えていないとき、何にも
考えようとしていない忘我のとき、フト浮かびあがってくる不思議な声。
それが天の声である。素直な魂の声である。たちまちにしてかき消され、
忘れられていく声かも知れないが、その一瞬のなつかしさを大事に
し給え。
小さな知恵と小さなとらわれと小さな憤りのなかで、われとわが心を
傷つける日々ではあるけれど、お互いの天与の魂はそんな日々に耐えて、
きょうもなお奥深く、静かな光をたたえている。その光が、もの思わぬ
一瞬にきらめくのである。天地と一体となった忘我のとき、フトひら
めき出るのである。この素直ななつかしさ。不思議なあたたかさ。
思い悩むのもよい。迷いの淵に立つのもよい。それも人間の一つの
生き甲斐かも知れない。しかし時に仰ぎ見給え、あのすき通るような
真冬の青空を。
● 忘我
熱中して我を忘れること。物事に心を奪われ、うっとりとなること。
● 生き甲斐
人生の意味や価値など、人の生を鼓舞し、その人の生を根拠づける
ものを広く指す。生きていく上でのはりあいといった消極的な生き
がいから、〈人生いかに生くべきか〉といった根源的な問いへの
〈解〉としてのより積極的な生きがいに至るまで、広がりがある。
生きられていく場合と、自覚的に人生の営みに取り込まれる場合と
がある。また一方では、自由や平等といった社会原理、愛や正義と
では、諸個人の日常生活に具体化されてより個別的な姿をとる。
この続きは、次回に。