続「道をひらく」松下幸之助 ⑭
・積極主義
待ちこがれた春。春光はさんさんとふりそそぎ、暖雨にさそわれて、
野山の草木は一せいに芽をふき出す。ありがたい天地の恵みである。
変わらぬ自然の恵みである。
その恵みを、お互いに素直に感謝をもって受け入れているかどうか。
天地に心あらば、せっかくのその恵みが素直に生かされず、時にかえ
ってその恵みを災いに転じている人間のおろかさを嘆いているかも
しれない。大気をけがし、水をけがし、火熱をおろそかにし、無造作に
大地をけずりとる。まさに心いたむ所業である。
それでもなお天地は、私心なく、わけへだてなく、変わりなく、すす
んでその恵みを与えつづける。分別もなく感謝もなく、酬われもない
けれど、それでもなお天地はその恵みを与えつづける。つまりは天地は、
積極主義なのである。積極主義なればこそのこの恵みなのである。
生成発展なのである。
お互いに、この天地に見習いたい。天地の積極主義を身につけたい。
私心なく、甘えることなく、素直な感謝をもって、天地とともに積極
主義をもって歩みたい。心をひらき、国をひらき、世界をひらく道が
そこにもある。
・無限の宝庫
この世の中に存在するものは、一つとしてムダなものはない。ムダだと
思うのは、その活かし方、使い方を知らないだけ。活かし方を知らな
ければ、すべてのものがマイナスになる。ムダだ、マイナスだと頭を
かかえてばかりいたら、不満に心が暗くなり、せっかくの天与の贈物も
猫に小判。
黄金は、猫にとっては何の役にも立たない無用の物かも知れないが、
その活かし方を知っている人間にとっては、天下の大宝。その価値を
知らぬ猫の愚を笑いたくもなるが、笑ってばかりもいられないのが
お互いの姿であろう。
無用と思われていたカビのようなものでも、これを有効に使えば、貴重
な働きをすることがわかってきた今日、この世の中はまさに無限の宝庫
である。すべての物はもちろんのこと、マイナスでしかない人間など、
本来この世にあろうはずがない。
お互いに、もうすこし謙虚でありたい。もうすこし勇気を持ちたい。
そして、もうすこし寛容の心を持って、すべての物が、すべての人が、
時と処を得て、その本来の値打ちが活かされるようつとめたいもので
ある。
この続きは、次回に。