続「道をひらく」松下幸之助 ㊵
● のりうつる
自分ひとりでできる仕事などというものは、この世の中には全くない
と言ってもよいであろう。みんな何らかの形で、人の助けをかりてい
るのである。
その助けが、直接眼に見える場合もあろうし、また眼に見えず意識を
しないこともあるかもしれない。それでも、自分のこの仕事は、人の
助けなくしては、一日も進み得ないのである。
だからこそ、常に感謝の気持ちをもって、進んで人の協力を求め、自分
のためにも、世の人のためにも役立つ、よりよき仕事を進めたいので
ある。
もっとも、ただジッと待っていただけでは、人の協力は得られない。
たえず自分をムチうって、乏しいなりにも自分の力を精いっぱい出し
切って、その自分の力が、相手の人にのりうつるぐらいの迫力ある
働きをしたいのである。
のりうつるのは、何も神秘な霊の話だけではない。真剣な働きを通じて、
自分の力もまた相手にのりうつり、そこに人の真の協力が得られると
思うのである。
● 仕事の人気
いわゆる芸能人が、自分の人気を気にすることは全く痛々しいほどで、
その日の舞台が、観客にどんな受けとられ方をしたか、毎日真剣に反省
し、良ければ良いで更にこれを伸ばし、悪ければ悪いで何とかこれを
改善しようと、寸時の休みもなしに工夫をこらす。人気が自分の生命を
左右することを、これほど深刻に、身にしみて感じている人びとは、
他にちょっと類がないであろう。
もっともこれが度をすぎると、そこから何かと弊害も生まれてくるが、
しかしこうした心がまえがあるこそ、激しい実力の世界を切り抜けて、
芸の進歩が生み出されてくる。
これはお互いに、充分見習わねばならぬことである。現在の自分の
仕事が、人びとにどんな影響を与え、また社会にどのように受け入れ
られているか、これを知らずしては、誰も次の仕事に進めない。
それがどんな些細な仕事であっても、こうした日々の反省が、次の工夫
を生み出し、進歩を促す。
もちろん不必要にこれに捉われ、つまらぬ頭の痛め方をすることは
ないけれど、いわゆる自分の仕事の人気ということについては、お互
いに無関心であってよいはずがないのである。
この続きは、次回に。