続「道をひらく」松下幸之助 ㊿+24
● ほんとうに
自分と自分の家族とのささやかな幸せを求めて、日々の精いっぱいの
働きをつみ重ね、小さいながらもわが家も建て、こどもも次々と大きく
なり、明るい灯の下での家庭の団らんも生まれてくる。日本の国がどう
なっていくかは知らないけれど、わが家はこれでよかったと喜んでいる
その外で、日本の国は日に日にゆれ動いて、何やら世間の気配がおか
しくなり、いつのまにやら灯火管制で団らんの灯が暗くなってしまう。
と思うそのうちに、ある日突然に一枚のハガキでこどもは出征し、
見上げる空からは焼い弾が雨のように降ってきて、堂々と築きあげた
わが家が燃えさかる。そのなかを、着のみ着のまま逃げまどうて、
自分と自分の家族のささやかな幸せはどこへやら、悲嘆の淵に立つ。
あのかつての日の悪魔は、今はもう遠い歴史のなかに埋もれて、お互い
にやっぱり自分と自分の家族のささやかな幸せを求めつづけている
きょうこのごろである。しかし、どうにも世間の気配がおかしい。
日本の行く末がおかしい。おかしいと思いながらも、日々を過ごして
いるけれど、このまま自分のことだけを考えていてよいのだろうか、
ほんとうに。
■ 灯火管制
灯火管制(とうかかんせい)とは、夜間に来襲する敵機に対して、
航路の判断、目的地や目標等の認知を困難にさせるため一定地域に
おいて消灯、減光、遮光、漏光制限などを行うこと。
この続きは、次回に。