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Think clearly シンク・クリアリー ⑯

16. 自分の向き不向きの境目をはっきりさせよう—「能力の輪」をつくる

 

□ 「能力の輪」を意識しながらキャリアを築く

 

世界を完全に理解している人はいない。人間ひとりの脳で理解するには、世界はあまり

にも複雑すぎる。

たとえあなたが一流の教育を受けたとしても、理解できるのは世界のほんの一部にすぎ

ない。だがほんの一部にすぎなくても、世界を理解することにはやはり意味がある。

その小さな一部が、成功に向けて高く飛び上がるためのスタート地点になるからだ。

スタート地点がなければ離陸はできない。

 

投資家のウォーレン・バフェットは、「能力の輪」というすばらしい表現を用いている。

人間は、自分の「能力の輪」の内側にあるものはとてもよく理解できる。だが「輪の

外側」にあるものは理解できない、あるいは理解できたとしてもほんの一部だ。

バフェットは人生のモットーとして「自分の『能力の輪』を知り、その中にとどまること。

輪の大きさはさほど大事じゃない。大事なのは、輪の境界がどこにあるかをしっかり

見きわめることだ」と述べている。

バフェットのビジネスパートナーであるチャーリー・マンガーは、さらにこんなふうに

補足している。「自分に向いている何かを見つけることだ。自分の『能力の輪』の外側

でキャリアを築こうとしてもうまくいかない。請け合ってもいい」。

IBMの初代社長トーマス・J・ワトソンは、この主張の正しさを裏づける生きた証拠だ。

ワトソンは自身についてこう述べている。「私は天才ではない。私にところどころ人より

優れた点があって、そういう点の周りからずっと離れないようにしているだけだ」。

 

自分の「能力の輪」を意識しながらキャリアを築くことは、いい人生を送るためのコツ

のひとつだ。

自分の「能力の輪」に常にピントを合わせていれば、そこからもたらされるのは金銭的

な成果だけではない。感情的なせいかも得ることができる。自分には人より抜きんでた

能力を持つ分野があるという、お金では買えない自信である。

そのうえ時間も節約できる。「能力の輪」の境界がわかっていれば、仕事上で何かを

承諾したり断ったりしなければならないときでも、そのつど判断しなくてすむからだ。

それに「能力の輪」の境界が明確なら、たとえどんなに魅力的な仕事のオファーでも、

自分にふさわしくないと思えばきっぱりと断ることができる。自分の「能力の輪」を

けっして越えないようにすることが重要だといえる。

 

□ 魅力的な仕事のオファーが舞い込んできたら?

 

(中略)

伝記の執筆は私の「能力の輪」の範囲外だったからだ。

(中略)

魅力的な仕事のオファーを受けて自分の能力の輪を「越えたくなる」誘惑のほかに、

もうひとつ同じくらい強い力で私たちをひきつけるものがある。自分の能力の輪を

「広げたくなる」誘惑である。

この誘惑は、あなたがこれまでの輪の中で成功をおさめ、そこで快適に過ごしている

場合には特に大きい。だが、「能力の輪」をむやみに広げようとするのはやめておいた

ほうがいい。人間の能力は、ひとつの領域から次の領域へと「転用」が利くわけでは

ないからだ。

能力には、それぞれ決まった「専門領域」がある。たとえ、すばらしいチェスのプレイ

ヤーだからといって、自動的にビジネスの優れた戦略家になれるわけではない。

心臓外科医だからといって、自動的によい病院長になれるわけでもない。不動産投機で

能力を発揮しているからといって、自動的に政治力のある大統領になれるわけではない

のだ。

 

□ ゲイツもジョブズもバフェットも「同じ」だった

 

それなら、「能力の輪」はどうやって作りあげればいいのだろう?

それは当然、ウィキペディアで調べてみても説明は見当たらない。大学で学んでみても

身につくものではない「能力の輪」の形成に必要なのは、「時間」である。

それも、とても長い時間がかかる。

(中略)

それからもうひとつ。「執着」が必要である。執着は一種の中毒だ。

(中略)

若い頃のビル・ゲイツは、プログラムを組むことに執着していた。スティーブ・ジョブズ

はカリグラフィーとデザインに。ウォーレン・バフェットは一二歳のとき、初めてもらっ

たおこづかいで株を買い、それ以降ずっと投資中毒になっている。

だがゲイツやジョブズやバフェットが「青少年期を無駄にした」などといい出す人は、

いまではいないだろう。彼らは、それらに執着して何千時間も費やしたからこそ、その

分野のエキスパートになれたのだ。

執着とは、エンジンが故障した状態を指すのではない。執着そのものがエンジンなのだ。

ちなみに、「執着」の対義語は「嫌悪」ではなく「興味」である。何かに対する感想を

求められたときに、「それは興味深いですね」と返すのは「私は大してそれに興味が

ない」と遠まわしに言いたいときの常套句だ。

 

□ 「欠点」よりも「能力」のほうに目をむける

 

しかしなぜ、「能力の輪」という考え方にはこれほどの影響力があるのだろうか?

「能力の輪」を知ることが人生の成功にもつながるのはなぜだろう?

答えは簡単。平均的なプログラマー(能力の輪の外側)と比較したときのすばらしいプロ

グラマー(能力の輪の内側)の優秀さの度合いは、二倍や三倍や十倍どころではないからだ。

何か問題が起きたとき、すばらしいプログラマーは平均的なプログラマーが必要とする

一○○○分の一の時間でその問題を処理してしまう。

同じことは弁護士にも、外科医にも、デザイナーにも、研究者にも、販売員にも当ては

まる。「能力の輪」の内側と外側の能力差には、一○○○倍もの開きがあるのだ。

ほかにもある。「人生は計画できるもの」というのは錯覚だ(第2章参照)。

予想外の出来事は人生のいたるところにころがっているし、ときには大暴風クラスの

出来事が待ち受けていることもある。

だが一か所だけ、穏やかな風がそよいでいる場所がある。それは、「能力の輪」の内側

である。その内側でも海面は凪の状態とまではいえないものの、波のうねりはそう高く

ない。少なくとも安全に航行を続けられる程度だ。

素っ気ない言い方をすれば、自分の「能力の輪」の内側でなら、間違った思い込みや

考え違いに対しても適切な対応措置がとれる。それどころか、従来の慣習を打ち破る

ようなリスクを冒すことだってできる。

「能力の輪」の内側では、必要なだけ先を見通し、その後に起こる事態を予測する

ことができるからだ。

結論。「自分に不足している能力」に不満を感じるのは、やめよう。

踊りが不得意なら、サルサのレッスンは止めればいい。描いた絵を自分の子どもに

見せてそれが馬か牛かわかってもらえないようなら、画家を夢見るのはやめればいい。

おばさんが訪ねてきただけでてんてこ舞いなら、レストランを開く構想など頭から締め

出せばいい。

あなたが、いくつの分野で「平均的」だろうとあるいは「平均以下」だろうと、そんな

ことはどうでもいい。大事なのは、あなたが少なくとも「ひとつの分野」で抜きんでて

いるということだ。

それが世界レベルの優秀さならいうことなし。もし何かの分野で秀でた能力を持っている

ようなら、あなたはすでによい人生の前提条件を備えていることになる。

ひとつでもすばらしい能力があれば、欠点がいくつあろうと帳消しになる。

同じ一時間を費やすなら、「能力の輪」の外側よりも内側のことにしたほうが一○○○倍も

価値がある。

 


 

この続きは、次回に。

 

2024年10月20日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

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