お問い合せ

Think clearly シンク・クリアリー ⑰

17. 静かな生活を大事にしよう—冒険好きな人より、退屈な人の方が成功する

 

□ 「証券トレーダーたち」と「バフェット」の対比

 

(中略)

ところ変わって、ここはアメリカの中でもさほど重要とは言えない場所、ネブラスカ州

ののんびりとした町、オハマである。

どこにでもあるようなオフィスビルの一四階にある飾り気のないオフィスには、ブルー

ムバーグのスクリーンもコンピューターの端末もなく、当然Eメールも使えない。

そこにあるのは古風な書き物机と電話だけ。

これは、史上もっとも成功している投資家のウォーレン・バフェットが、五○年間

毎日仕事をしてきたオフィスである。

 

これ以上ないほどの極端なコントラストだ。大袈裟な動きで汗をかきながら働く、

男性ホルモンみなぎる証券トレーダーと、静かな環境で働く白髪頭のウォーレン

おじさん。

対照的なのは仕事ぶりだけではない。証券トレーダーが行っているのは「投機」だが、

バフェットが行っているのは「投資」だ。

このふたつの違いが理解できるようになると、役に立つ思考の道具をひとつ手に入れら

れる。人生のあらゆることがらにおいても、同じような区別をつけられるようになるか

らだ。

 

□ 「投資家」だけが大きな成功を手にできる理由

 

両者の違いはどこにあるのだろう?

(中略)

バフェットと彼のビジネスパートナーであるチャーリー・マンガーは、これまで一度も

自分たちから投資の機会を求めたことはないそうだ。誰かから投資を求められるのを、

ただ待っているだけらしい。

バフェットは文字通り、次のように述べている。「チャーリーと私は、電話が鳴るのを

ただ座って待っているだけだ」。

 

「投機家」と「投資家」を比較したとき、結果的に大きな成功を手にしているのはどち

らだろう?

もちろん、どちらにも勝者と敗者がいるが、大きな成功をおさめている勝者は、「投資

家」にしかいない。その理由はなんだろう?

両者のもっとも大きな違いは、「費やす時間の長さ」である。投資家は利益を手にする

のに長い時間をかけるが、証券ディーラーはそうではない。

そもそも、私たちの脳は、「短期間に一気に状況が変わるような展開」を好むように

できている。

何かがピークに達したときやどん底に落ち込んだとき、急激な変化、世の中が騒然と

するようなニュースなどに大げさに反応する。一方、ゆったりとした展開にはほとんど

気づかない。

そのため、私たちは「何もしない」よりは「している」ほうを、「思案する」よりは

「せっせと働く」ほうを、「ただ待つ」よりは「積極的に動く」ことのほうを、高く

評価してしまう。

 

□ なぜ「カローラ」がもっとも売れた車となりえたのか

 

これまでで一番よく売れている本はなんだか、ご存知だろうか?

最新のベストセラーリストにある本でも、本屋に大量に平積みされている本でもない。

答えは、何十年、もしくは何百年も前から途切れなく出版されつづけているもの——

聖書、毛沢東の『毛主席語録』、コーラン、マルクスとエンゲルスの『共産党宣言』、

トールキンの『指輪物語』、サン=テグジュペリの『星の王子さま』といった、いわゆ

る「ロングセラー」と呼ばれる本だ。

どんな出版社も、ロングセラーなしでは立ちゆかない。同じことはブロードウェイの

ショーにも、観光名所にも、歌にも、そのほかの多くのものには当てはまる。

これまでにもっともよく売れている車は、トヨタのカローラだ。一九六六年の販売開始

以来、継続的に新型車が発売されている。現在のモデルで一一代目だ。

カローラは、発売一年目の売り上げで人気車となったわけではない。長期にわたって

売れつづけているからこそ、人気車の座を獲得できたのだ。

 

こうした長期にわたる成功には、もうひとつ目に見えない要素が含まれている場合が

多い。ベーキングパウダーのように、「時間をかけて少しずつ成長していく」要素である。

たとえば、「投資」を例にとって考えてみよう。

(中略)

資本は「一定の割合で増えていく」のではなく、「飛躍的な増え方をする」のだ。

長期にわたる変化を認識できない私たちの脳は、長期にわたって起こる飛躍的な変化を

感じ取ることもできないのである。

これが、「長い時間をかけて一貫して何かに取り組んだほうが、大きな成功が得られ

る」という理由である。ケーキのベーキングパウダーのように、成果は時間とともに

どんどんふくらんでいく。

緩慢で、退屈そうに見えて、時間のかかるプロセスが、もっとも大きな成果を生み出す

のである。同じことは人生にも当てはまる。

 

□ ひとつのことに「長期的」に取り組もう

 

現在、「積極性」や「多忙さ」や「せわしなさ」が、かつてないほど褒めそやされている。

そして「破壊すること」を崇める現代の風潮は、私たちのキャリアや会社や人生までも、

完全に破壊して、また新しく創りあげるようにとせきたてようとする。そうしなければ、

競争力を維持できないというのだ。

そのうえ多くの人々は、よい人生には冒険や旅行や引っ越しや、さらには人生の絶頂期

がつきものだと思い込んでいる。

だが私は、よい人生とはその真逆をいくことだと思っている。人生は、静かなほうが、

生産性が高い。

(中略)

 

それでは、あなたの人生を向上させるには、いったいどうすればいいのだろう?

それにはせわしなく動き回るのを控え、何ごとにも落ち着いて、長期的に取り組むことだ。

そしていったん「能力の輪」(前章参照)をつくりあげたら、その内側にとどまったほう

がいい。それも、できるだけ長く。

よい人生のパートナーや、理想的な住まいや、充実感を得られる趣味を見つけた場合

でも同じだ。

根気、長期的な考え、ひとつのことに取り組みつづけること。どれも非常に価値がある

にもかかわらず、過小評価されている美徳である。改めて評価されてしかるべきだろう。

チャーリー・マンガーはこんなことをいっている。「何も優秀である必要はない。

ほかの人間よりもほんの少し賢くあればいい。ただし、長い長い期間にわたってね」。


 

この続きは、次回に。

 

2024年10月31日

株式会社シニアイノベーション

代表取締役 齊藤 弘美

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