書籍「Effectuation エフェクチュエーション」 ③
✔︎ 起業家的方法の発見
エフェクチュエーションが一体どのような論理があるかは、本書を通して詳しくご理解
いただけると思います。その前に、この発見がもたらしたインパクトをもう少し確認し
ておきましょう。
この発見は、大きく2つの意義を持つものでした。
・ 1つは、新たな事業や企業、市場を作り出す起業家による偉大な成果というのは、
彼らの特性や資質によるものではないことを明らかにしたという意義です。
・ もう1つは、エフェクチュエーションの発見が、不確実性への対処において、私たち
の慣れ親しんだ予測合理性とは異なる。代替的なアプローチの有効性を提示するも
のであったことです。
・ ビジネスのさまざまな意思決定には、成功するかどうかを事前には正確に予測でき
ない不確実性が伴いますが、これまでの経営学では、こうした不確実性への対処に
共通する基本的方針として、「追加的な情報を収集・分析することによって、不確
実性を削除させる」ことが目指されてきました。それゆえに私たちは一般に、不確
実性な取り組みに際しては、まず行動を起こす前にできる限り詳しく環境を分析し、
最適な計画を立てることを重視します。目的(たとえば、新事業の成功)に対する正し
い要因(成功するための最適な計画)を追求しようとする、こうした私たちの思考様式を、
サラスバシーは、「コーゼーション(causation:因果論)と呼びます。しかし、意思決
定実現の結果は、高い不確実性への対処において熟達した起業家が、必ずしも予測
可能性を重視するコーゼーションをもちいておらず、対照的に、コントロール可能
性を重視する代替的な意思決定のパターンがみられることを示すものでした。
□ コーゼーション(causation:因果論)
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「コーゼーションとは」のAI回答
コーゼーションとは、目標を先に設定し、その目標達成のために逆算して意思決定を
行う思考法です。
これは「原因、因果関係」を意味する英単語「Causation」に由来し、従来の経営学に
おいて中心的な考え方とされてきました。
コーゼーションの特徴は以下の通りです。
目標からの逆算:明確な目標を設定し、そこから達成に必要なプロセスや手段を計画します。
予測可能性の前提:未来はある程度予測可能であるという前提に立って戦略を立てます。
トップダウン方式:目標が明確な既存ビジネスや、市場が比較的安定している場合に
有効なアプローチです。
コーゼーションは、目標が明確で、環境変化が少ない状況や、組織内での合意形成が
必要な場合に特に有効とされています。しかし、予測が難しい現代のような不確実性の
高い時代(VUCA時代)においては、このアプローチだけでは限界があるとも指摘され
ています。
✔︎ これまでの経営学が重視してきたコーゼーション(因果論)
目的に対して最適な手段を追求するコーゼーションのプロセスでは、スタート時点で
具体的な目的、すなわちターゲットとする市場機会(ビジネスチャンス)が特定されて
いる必要があります。そのうえで、顧客のニーズや、競合する企業や製品・サービスに
ついて分析をするために、体系的なマーケティング・リサーチが実施され、それをもと
に期待利益(どれくらいのリターンが期待できそうか、また成功確率はどれくらいか)を
予測して、できるだけ正しい戦略計画を策定できれば、それを実行するために必要な
資源を調達・配分して、計画通りに実行することで当初の目標を達成することが目指さ
れます。
スタート
⬇️
新しい製品・企業・市場の機会を特定
⬇️
競争分析の実施
マーケットリサーチの実施
⬇️
事業計画の策定
⬇️
計画実施のために適切な資源と利害関係者を獲得
⬇️
時間とともに変化する環境に適応
・ コーゼーションは、予測に基づいて機会を特定したうえで、成功する見込みの高い
プロジェクトに効率的に経営資源を配分することが可能な、合理的なアプローチです。
その重要性は、今日までの経営学、ならびにビジネス実践において広く浸透しています。
・ 環境の不確実性が高い場合や活用できる資源に制約がある場合に、コーゼーション
のアプローチではすぐに行き詰まってしまうのです。
この続きは、次回に。
2025年9月14日
株式会社シニアイノベーション
代表取締役 齊藤 弘美