「新訳」 イノベーションと起業家精神 上-11
[第5章] ニーズを見つける—第三の機会
1 ニーズはイノベーションの母
○ プロセス・ニーズ
イノベーションの機会としてのプロセス・ニーズの利用は、ほかのイノベーションとは異なり、
環境からスタートすることはない。課題からスタートする。状況中心ではなく、課題中心である。
それは、知的発見によって、すでに存在するプロセスの弱みや欠落を補うためのイノベーションで
ある。関係者ならば、誰もがそのニーズの存在を知っている。しかし誰も手をつけていない。
ひとたびイノベーションを行うや、直ちに当然のこととして受け入れられ、標準として普及して
いく。 これらのニーズは、プロセス・ギャップから生じていた。
○ 労働力ニーズ
労働力ニーズもまた、きわめてしばしばイノベーションの機会となる。
2 開発研究
○ 知識ニーズ
イノベーションの機会としてのニーズには、プロセス・ニーズと労働力ニーズが最も一般的である。
しかし、その利用がより困難であり、より大きなリスクを伴ってはいるが、非常にしばしば重要な
意味をもつニーズとして、知識ニーズがある。すなわち、(科学者の「純粋研究」に対置されるもの
としての){開発研究}の目的としてのニーズである。
そこには、明確に理解し、明確に感じることのできる知識が欠落している。
その知識ニーズを満たすためには、知的な発見が必要となる。
プロセス・ニーズを満たすうえでも、しばしばこの開発研究が必要となる。
ここでも、まずニーズを知り、何が必要であるかを明らかにしなければならない。
そうしてはじめて、必要な新しい知識を生み出すことができる。
○ 的を絞る
開発研究というと大規模なものに聞こえるかもしれない。多くの人たちにとって、それは、
月へ人を送ることや、小児麻痺のワクチンを発見することを意味する。しかし、成功をおさめて
いるものの多くは、目標の明確な小さなプロジェクトである。
開発研究は、的を小さく絞るほどよい結果が出る。
3 五つの前提と三つの条件
岩佐多聞の成功は、ニーズにもとづくイノベーション、とくにプロセス・ニーズによるイ
ノベーションが成功するためには、五つの前提があることを教えている。
(1) 完結したプロセスについてのものであること。
(2) 欠落した部分や欠陥が一か所だけあること。
(3) 目標が明確であること。
(4) 目標達成に必要なものが明確であること。
(5) 「もっとよい方法があるはず」との認識が浸透していること。
つまり、受け入れ態勢が整っていることである。
○ ニーズの理解
ニーズにもとづくイノベーションには三つの条件がある。
第一に、何がニーズであるかが明確に理解されていることである。
何となくニーズがあると感じられるだけでは不十分である。
それだけでは、目標の達成のために何が必要なのかを明らかにしようがない。
○ 知識の入手可能性
第二に、イノベーションに必要な知識が手に入ることである。
○ 使い方との一致
第三に、問題の解決策が、それを使う者の仕事の方法や価値観に一致していることである。
ところが、明確なニーズにもとづくイノベーションでありながら、当事者の仕事のやり方に
合わなかったために、なかなか受け入れられない例が実際にある。
ニーズによるイノベーションの機会は、体系的に探すことができる。
電気に関してはエジソンが行ったことが、それだった。
ヘンリー・ルースがエール大学の学生だった頃に行い、ウィリアム・コナーが行ったことも
それだった。ニーズにもとづくイノベーションは、まさに体系的な探究と分析に適した分野で
ある。しかし、ひとたびニーズを発見したならば、まず、先に述べた五つの前提に照らしてみる
ことが必要である。しかるに後に、三つの条件に合致しているかどうかを調べることが不可欠で
ある。すなわち、ニーズは明確に理解されているか、必要な知識は現在の科学技術で手に入れ
られるか、そして得られた解決策は、それを使うはずの人たちの使い方や価値観に一致している
かである。
この続きは、次回に。