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「新訳」 イノベーションと起業家精神 上-15の①

[第9章]  新しい知識を活用する—第七の機会

1 知識によるイノベーションのリードタイム

  歴史を変えるようなイノベーションのなかでは、知識によるイノベーションはかなり上位に

  位置づける。イノベーションのもとになる知識は、必ずしも科学上、技術上のものである

  必要はない。社会的なイノベーションも、同じかそれ以上に大きな影響をもたらす。

  知識によるイノベーションは、その基本的な性格、すなわち実を結ぶまでのリードタイムの長さ、

  失敗の確率、不確実性、付随する問題などが、ほかのイノベーションと大きく異なる。

  さすがスーパースターらしく、気まぐれであって、マネジメントが難しい。

 

・リードタイムの長さ

  知識によるイノベーションの第一の特徴は、リードタイムがきわめて長いことである。

  新しい知識が出現してから、技術として応用できるようになるまでには、長いリードタイムを

  必要とする。市場において製品やサービスとするには、さらに長いリードタイムを必要とする。

 

・リードタイムが短縮されるとき

  実用化までのリードタイムが短縮されるのは、外部から危機がやってきたときだけである。

 

・社会的イノベーションのリードタイム

  知識にもとづくイノベーションに長いリードタイムが必要とされるのは、科学や技術の領域に

  かぎらない。それは、科学や技術以外の知識によるイノベーションについてもいえる。

 

・30年というリードタイム

  このように、知識が技術となり、市場で受け入れられるようになるには、25年から35年を

  要する。リードタイムの長さは、人類の歴史上さして変わっていない。

  今日、科学上の発見は、かつてないほど早く、技術、製品、プロセスに転換されるように

  なったとされている。だが、それは錯覚にすぎない。

  知識がイノベーションとなるまでのリードタイムは、知識そのものの本質に由来するかの

  ようである。なぜかはわからない。

 

2 知識の結合

・知識結合の例

  知識にもとづくイノベーションの第二の特徴、しかもその際立った特徴は、それが、科学や

  技術外の知識を含め、いくつかの異なる知識の結合によって行われることである。

 

・知識が出揃ったとき

  必要な知識のすべてが用意されないかぎり、知識によるイノベーションは時期尚早であって、

  失敗は必然である。

  イノベーションが行われるのは、ほとんどの場合、必要なもろもろの要素が既知のものとなり、

  利用できるものとなり、どこかで使われるようになったときである。もちろん、イノベーションを

  行おうとする者が、欠落した部分を認識し、自らそれを生み出すこともある。

  このように、知識によるイノベーションは、そのために必要な知識のすべてが出揃うまでに

  行われない。それまでは死産に終わる。

  すべての知識が結合するまでは、知識によるイノベーションのリードタイムは始まりさえしない。

 

3.知識によるイノベーションの条件

  知識によるイノベーションは、まさにその特徴のゆえに三つの特有の条件を伴う。しかもそれは、

  ほかのいかなるイノベーションの条件とも異なる。

 

・分析の必要性

  第一に、知識によるイノベーションに成功するには、知識そのものに加えて、社会、経済、

  認識の変化などすべての要因分析をする必要がある。起業家たる者は、その分析によって、

  いかなる要因が欠落しているかを明らかにしなければならない。

  分析を行わなければ、欠落している知識が何であるかはわからない。したがって分析を

  行わないことは、失敗を運命づけるに等しい。

  イノベーションのための分析は当然のことのように思われる。しかし実際には、科学的あるいは

  技術的なイノベーションを起こそうとする者が、そのような分析を行うことは稀である。

  科学者や技術者は、自分がすべてを知っていると思い込んでいる。そのためそれらの分析を

  行おうとしない。知識による偉大なイノベーションの多くが、科学者や技術者よりも素人を父とし、

  あるいは少なくとも祖父とする結果になっているのは、このためである。

 

・戦略の必要性

  第二に、知識によるイノベーションを成功させるためには、戦略をもつ必要がある。

       知識によるイノベーションを成功させるには、本腰を入れて取り組まなければ

       ならない。知識によるイノベーションの位置づけには、三つの戦略しかない。

  (1)エドウィン・ランドがポラロイドカメラについてとった戦略、すなわちシステム全体を

    自ら開発し、それをすべて手に入れようとする戦略である。

  (2)システム全体でなく市場だけを確保しようとする戦略である。

     知識によるイノベーションは、市場を創造する。

  (3)戦略的に重要な能力に力を集中し、重点を占拠してしまおうとする戦略である。

     イノベーションを行った者が、産業内部の激動から超然としていられるための場所は

     どこか。いかなる産業にあっても、これら三つの戦略のうちいずれかを選ぶことができる。

     このように、知識によるイノベーションを行おうとする者は、戦略を定めなければならない。

     もちろん、ここにあげた三つの位置づけに関する戦略のいずれもが、大きなリスクを伴う。

     しかし、明確な戦略をもたないことや、同時に二つの以上の戦略をもつことには、さらに

     大きなリスクが伴う。致命的に大きなリスクが伴う。

 

この続きは、次回に。

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