お問い合せ

[新訳]イノベーションと起業家精神(下) —-その原理と方法⑦

2 社会的機関の起業家原理

○   目的を明確に

第一に、社会的機関は明確な目的をもたなければならない。自分たちは何をしようとしているのか。なぜ存在しているのか。

社会的機関は、個々のプロジェクトではなく、目的そのものに的を絞らなければならない。個々のプロジェクトは、目的のための手段である。一時的なものであり、しかも短命なものと考えなければならない。

 

○   目標を現実的に

第二に、社会的機関は現実的な目標をもたなければならない。目標は、「空腹の根絶」ではなく「飢餓の減少」でなければならない。社会的機関は実現可能な目標を必要とする。やがた「達成した」といえる実現可能な目標を必要とする。実現が不可能であってはならない。完全なる正義の実現は永遠の課題である。いかに控え目にいっても正義が完全に実現することはありえない。ほとんどの目標は、最大ではなく最適の水準をもって規定することができる。またそのように規定する必要がある。そうしてはじめ「達成した」と言うことができる。

 

○   目標を再点検

第三に、社会的機関は、いつになっても目標を達成することができなければ、目標そのものが間違っていたか、あるいは少なくとも、目標の定義の仕方が間違っていた可能性のあることを認めなければならない。目標は、大義ではなく、費用効果にかかわるものとしてとらなければならない。いかに努力しても達成できない目標は、目標として間違っていると考えるべきである。目標を達成できないからといって、それをさらに努力すべき理由としてはならない。

数学の世界ではすでに300年前に明らかにされているように、成功の確率は、回を追うごとに下がる。つねに前回の半分以下となる。したがって、目標を達成できないということは、社会的機関の多くが考えることとは逆に、目標そのものの有効性を疑うべき理由となる。

 

○   機会を追求

第四に、社会的機関は、イノベーションの機会の追及を自らの活動に組み込まなければならない。変化を脅威としてではなく、機会として見るようにならなければならない。

政府機関でさえ、起業家的たるためのこれら四つの簡単な原理を適用することによって、イノベーションが可能となる。これら四つの原理は、社会的機関が起業家として、イノベーションを行うための経営政策である。もちろんこれらと併せて、あらゆる種類の既存の組織が起業家的になるうえで必要な経営政策と、具体的な方策の適用が必要である。

 

3 既存の社会的機関によるイノベーションの必要性

既存の社会的機関にイノベーションを行わせ、起業的にマネジメントしなければならない。

そのためには、社会的機関は、この急激な変化の時代にあって、社会、技術、経済、人口構造の変化を機会としてとらえなければならない。さもなければ、社会的機関は単なる邪魔物となる。環境が変化するなかにあって、もはや昨日しなくなった事業やプロジェクトに固執しているようでは、いかなる役割もはたせなくなる。そのうえ、果たせなくなった役割を放棄せず、放棄しようともしなくなる。

 

○   社会が必要とするからには

しかしそれでも社会は、新しい挑戦、ニーズ、機会を伴う急激な変化の過程にあって、社会的機関を必要とする。ほかの社会的機関も状況は似ている。すでに何が問題であるかは明らかである。イノベーションの必要は明らかである。今やそれらの社会的機関は、自らのシステムのなかに、いかにしてイノベーションと起業家精神を組み込むべきか学ばなければならない。さもなければ、新たに起業家的な社会的機関をつくり、既存のものを陳腐化させる部外者に頼らざるをえない。

今日の社会的機関のほとんどは、その組織と使命が、60年前、70年前のままである。

しかし、これからの20年、30年はそうはいかない。社会的イノベーションの必要性はさらに高まる。しかもほとんどは、既存の社会的機関の手によって行わなければならない。したがって、既存の社会的機関のなかに起業家的なマネジメントを組み込むことが、今日における最大の政治課題である。

 

この続きは、次回に。

 

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