チェンジ・リーダーの条件⑯
○ 人をマネジメントする正しい方法は一つか
その一つが、組織のために働く者はすべて、その組織に生計とキャリアを依存するフルタイムの従業員であるとする前提である。
もう一つが、組織のために働く者はすべて、その組織において誰かの部下であるとする前提である。
しかも彼らのほとんどが、とりたてて能力もなく、言われたことをするだけの存在であるとる前提である。
これからは、人をマネジメントすることは、仕事をマーケティングすることを意味する。
マーケティングの出発点は、組織が何を望むか、相手にとっての価値は何か、目的は何か、成果は何かである。
理論においても実務においても、問題は成果についてのマネジメントの仕方である。
ちょうどオーケストラやフットボールの中心が音楽や得点であるように、人をマネジメントの中心となるべきものは、成果である。
行うべきは、人をマネジメントすることではなく、リードすることである。
その目的は、一人ひとりの人間の強みと知識を活かし、生産的なものにすることである。
○ 技術と市場とニーズは不可分か
今日の技術は、19世紀の技術のように、それぞれがそれぞれの世界にあり続けるというものではない。たがいに交錯する。
医薬品メーカーにとっての遺伝子工学や医療用エレクトロニクスのように、聞いたことのない技術が、突然、産業と技術にイノベーションを起こす。新しいことを学び、手に入れ、使い、さらにはものの考え方まで変えることを必然とする。
今日基本的な資源は情報である。
情報は他の資源と違い、希少性の原理に従わない。逆に、潤沢性の原理に従う。
本を売れば、その本は手元からなくなる。
ところが、情報は売っても残る。むしろ、大勢がもつほど価値がある。
このことの意味は、経済理論そのものの再構築を必要とするほど大きい。
マネジメントのあり方にとっても大きな意味がある。
これまでの前提を変えなければならなくなることは間違いない。
情報は、特定の産業や企業が独占しうるものではない。
情報の使い道は一つではない。
使い道のほうも、特定の情報にこだわることはない。
依存することもない。もはや特定の産業だけのための技術などというものはなく、あらゆる技術があらゆる産業にとって重要であり、重大な関わりをもつ可能性があることを前提としなければならない。また、いかなる財、サービスといえども使い道は一つでなく、逆に、いかなる使い道も、いかなる財、サービスにも縛られるものではないことを前提としなければならない。
このことを意味することは、第一に、企業、大学、教会、病院のいずれにせよ、顧客でない人たち(ノンカスタマー)が、顧客以上に重要になったということである。
政府による独占を別とすれば、最大の市場シェアを誇るものにとってさえ、ノンカスタマーの数のほうが顧客よりも多い。しかるに、変化はつねにノンカスタマーから始まる。
第二に、もはや自らの製品やサービスを中心においてはならないということである。
中心とすべきは、顧客にとっての価値や質とは違う。
マネジメントが基盤とすべきは、顧客にとっての価値であり、支出配分における顧客の意思決定である。
経営戦略は、そこから出発しなければならない。
○ マネジメントの範囲は法的に規定されるか
今日では、経済連鎖の概念のもと、対等な力と独立性をもつ者との間に、真のパートナーシップが生まれつつある。
今日必要とされているものは、マネジメントの範囲の見直しである。
マネジメントは、あらゆるプロセスを対象としなければならない。
企業において、それは経済的プロセスの全体でなれければならない。
こうして、理論と実務の双方において今後前提とすべきものは、マネジメントの範囲は、法的にではなく実体的に規定されるということである。
マネジメントは、あらゆるプロセスを対象としなければならない。
経済連鎖全体における成果と仕事ぶりに焦点を合わせなければならない。
○ マネジメントの対象は国内にかぎられるか
今日のグローバル企業および変身中のかつての多国籍企業にとって、国はコスト・センターにすぎない。
企業にとって、あるいは企業以外の組織にとっても、国は、戦略上も生産活動上も、経済単位ではなく、厄介の種にすぎない。
マネジメントの対象と国境は一致しなくなった。
もはやマネジメントの対象を政治的に規定することはできない。
国境自体は、マネジメントにとって重要な意味をもち続ける。
しかし今後前提とすべきは、国境は制約条件にすぎないということである。
現実のマネジメントは、政治ではなく、経済の実体が規定する。
○ マネジメントの世界は組織の内部にあるのか
企業にせよ、いかなる組織にせよ、イノベーションを行わず、起業家精神を発揮することなく永続することなどありえない。
マネジメントを知らぬ起業家が成功し続けることはありえない。
イノベーションを知らぬ経営陣が永続することもありえない。
企業にせよ、他のいかなる組織にせよ、変化を当然として、自立変化を生み出さなければならない。
マネジメントは、組織の仕事ぶりと成果に焦点を合わせなければならないからである。
マネジメントの役割は、組織としての仕事ぶりと成果をあげることにある。これこそ、実際に取り組んでみれば明らかなように、もっともむずかしく、しかももっとも重要な仕事である。
理論および実務としてのマネジメントが基盤とすべき前提は、マネジメントとは組織の外部において成果をあげるためのものであり、したがって、まずそれらの成果を明らかにし、次にそれらを実現するために、手にする資源を組織しなければならないということである。
マネジメントとは、企業、社会、大学、病院、あるいは女性保護協会のいずれであれ、自らの外部において成果をあげる機関である。
今日の社会、経済、コミュニティの中心は技術ではない、情報でもない、生産性でもないということである。
それは、成果をあげるための社会的機関としての組織であるということである。
そして、この組織に成果をあげさせる道具、機能、機関がマネジメントである。
そしてもう一つ、前提とすべきパラダイムがある。
マネジメントが対象とし、責任を負うべきものは、組織の仕事ぶりと成果に関わるものすべてであるということである。
この続きは、次回に。