チェンジ・リーダーの条件-32
○ 柔道戦略——ゲリラ戦略②
これは予期せぬ成功の拒否と利用の古典的な例である。
産業や市場において支配的地位の獲得を目指す戦略のうち、柔道戦略こそもっともリスクが小さく、もっとも成功しやすい戦略である。
日本企業、MCI、ROLM、シティバンクなどの新規参入者はすべて、柔道戦略を使った。
○ 新規参入者に市場を奪われる原因—-五つの悪癖
新規参入者に、柔道戦略を使わせ、急成長させ、トップの地位を得させてしまうのは、先行者に共通して見られる五つの悪癖のいずれかが原因である。
第一に、米語でいうところのNIH(Not Invented Here—-自分たちの発明ではない)という態度、自分たちが考えたもの以外にはろくなものがないという傲慢さがある。
第二に、もっとも利益のあがる部分だけを相手にするという、いいとこ取りがある。
第三に、価値についての誤解がある。製品やサービスの価値は供給者がつくるものではない。顧客が引き出し、対価を払うものである。
製品は、生産がむずかしく、金がかかることに価値があるのではない。
それは、単にメーカーとしての無能を示すだけである。
顧客は自分にとって有用なもの、価値あるものを提供してくれるものに対価を払う。それ以外のものは価値ではない。
第四に、いいとこ取りや、価値についての誤解に関係があることとして、創業者利益なる錯覚がある。
第五に、すでに地位を確立している企業によく見られ、かつ必ず凋落につながるものとして、多機能の追求がある。
それは、製品やサービスの最適化ではなく、最大化を求めることである。
○ 関所戦略—-ニッチ戦略①
総力戦略、創造的模倣戦略、柔道戦略という三つの起業家戦略は、市場や業界の支配はねらわなくとも、トップの地位を目指す。
これに対し、隙間(ニッチ)の占拠を目指すニッチ戦略は、目標を限定する。
ニッチ戦略は、限定された領域で実質的な独占を目指す。
三つの戦略が競争を覚悟しているのに対し、ニッチ戦略は競争に免疫になることを目指し、挑戦を受けることさえないようにする。
ニッチ戦略は三つあり、それぞれに、特有の条件、限界、リスクがある。
関所戦略、専門的戦略、専門市場戦略である。
○ 専門技術戦略—–ニッチ戦略②
専門技術戦略は、タイミングが重要である。
新しい産業、新しい習慣、新しい市場、新しい動きが生まれる揺籃期にスタートしなければならない。
専門技術戦略を使うためには、どこかで何か新しいこと、つけ加えるべきこと、あるいはイノベーションが起こらなければならない。
専門技術によるニッチ市場が、偶然見つかることはあまりない。
イノベーションの機会を体系的に探すことによって、初めて見つけられる。
起業家は、支配的地位を得られそうな専門技術が開発できる分野を探す。
したがって、この戦略の条件として第一にいえることは、新しい産業、市場、傾向が現われたならば、できるだけ早く、専門技術による機会を体系的に探さなければならないということである。
そのための専門技術を開発する時間が必要だからである。
第二にいえることは、独自かつ異質の技術をもたなればならないということである。
第三にいえることは、専門技術戦略によってニッチ確保に成功した企業は、たえずその技術の向上に努めなければならないということである。
つねに一歩先んじなければならない。まさに、自らの手によって、自らを陳腐化していかなければならない。
専門技術戦略には厳しい限界もあるその第一は、焦点を絞らざるをえないことである。
自らの支配的地位を維持していくには、自らの狭い領域、専門分野だけを見ていかなければならない。
第二は、ほかの者に依存しなければならないということである。
彼らの製品やサービスは部分品である。
自動車の電気系統の部品メーカーにとって、消費者が彼らの存在を知らないことは強みであるが、弱みでもある。
第三は、もっとも大きな危険として、時に専門技術が専門技術でなくなり一般化してしまうことである。
専門技術戦略によって得られるニッチ市場には、ほかのあらゆる生態学的なニッチと同じように、時間的にも領域的にも限界がある。
生物学によれば、そのような地位を占有する「種」は、外部環境のわずかな変化にも適応できない。
これは、専門技術の「種」についてもいえる。しかし、そのような限界の枠内では、専門技術による地位はきわめて有利である。
急速に成長しつつある技術、産業、市場では、もっとも有効な戦略である。
このように、新しい技術、産業、市場においては、専門技術戦略は、機会とリスクの比がもっとも有利になる。
この続きは、次回に。