認知症はもう怖くない ㉒
ストレスホルモンと認知症および若年性認知症との相関関係
コルチゾールという副腎皮質から分泌されるホルモンがあります。
糖質コルチコイドの一種で、ヒドロコルチゾンとも呼ばれます。
糖代謝をはじめ、タンパク代謝、脂質代謝、電解質の代謝、骨代謝、さらに免疫機構にも関与しており、
生命維持に不可欠なホルモンです。
このホルモンは別名「ストレスホルモン」とも呼ばれていて、過剰なストレスによって多量に
分泌されるのですが、その反応はとても敏感です。
さらに、このホルモンが多量に分泌された際に、脳の海馬を萎縮させることがわかっています
(Lancet 1988;2:391-392)。
現代では年齢を問わず、家庭、学校、職場で強いストレスを受けて、うつになる人は珍しくありません。
さて、読者の方はすでに察しがついておられると思いますが、
① 強いストレス → ② 「ストレスホルモン」コルチゾール分泌 → ③ 脳の海馬萎縮 →
④ 認知症への進行 という図式が明らかになっています。
高齢になって認知症の症状が見られるのは年齢によるものとある程度は納得ができても、
若い働き盛りの方の若年性認知症の多くはこのタイプではないかと思われます。
もちろん、認知症の原因解明はまだ道半ばですので、それ以外の因子もありうるのですが、
職場で強いストレスにさらされることが頻繁に、あるいは長期間続いたとすれば、この可能性は
高いと疑うべきでしょう。とくに海馬は短期記憶を格納する部位ですので、就業中の「取引先との
約束を忘れる」「重要な商談をすっぽかす」「受注商品の手配をせず損害を与えた」といった、
働き盛りの方が若年性認知症で引き起こすトラブルはまさしく、海馬の萎縮による結果だと判断できます。
この「ストレスホルモン」コルチゾールは年齢に関係なく分泌されます。
たとえば、もしも成長期の子供たちが教室内でいじめに遭い、長期間ストレスを受けていたら、
海馬の成長は阻害され萎縮してしまいます。
当然ですが、その境遇の子供たちの(脳の機能として)学習能力に影響を与えてしまうことになります。
その状態を放置することが、子供の成長、子供の将来に影を落とすことは想像に難くありません。
糖尿病治療では、うつと認知症の関係にも注意が必要
糖尿病が認知症発症の危険因子であることはこの章の最初のほうですでに述べました。
ここでは「うつを発症させている糖尿病患者」について見てみたいと思います。
糖尿病になると、そうでない人と比べて抑うつ症の発症が20%近く増えるということです。
糖尿病患者に抑うつ症の治療をおこなうことは、将来の認知症発症を予防できるかもしれません。
逆に糖尿病の治療がうまくいかない患者は、抑うつ症の影響を疑ったほうがよいのかもしれません。
抑うつ症をもつ糖尿病患者は、食事療法や運動療法を嫌がり、喫煙や飲酒などの認知症発症因子を、
さらに上乗せしてしまいやすくなります。抑うつ症にともなうコルチゾール(前出のストレスホルモン)の
増加や自律神経の失調は血糖コントロールに、さらに悪影響をもたらし、認知症を引き起こす
可能性を高めてしまいます。
糖尿病と診断されたら、これらの危険因子を招かない注意が必要です。
この続きは、次回に。