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池上彰のやさしい経営学 1しくみがわかる ⑰

Chapter5  公共事業で景気回復ケインズ

—-いま世界中で、財政赤字が深刻な問題になっています。

不景気時は赤字国債を発行し、公共事業で景気回復を図る。

このケインズの理論は、いまの景気対策としてなかなか効果があらわれません。

それはなぜなのでしょうか。

ケインズ理論の基礎とその問題点を見ていきます。

 

昔は公共事業で景気回復しましたが、いまではなかなか効果がでません。

 

経済政策の常識を変えたケインズ

資本主義というのは、大きな問題がある。

景気はよくなったり悪くなったりするし、ものすごく悪くなれば失業者が大勢増えて、さまざまな

問題が起きる。

これは資本主義そのものに問題があるからだというのがマルクスの考え方でした。

それに対して、資本主義の欠陥を補う政策がとれれば、資本主義でも十分やっていける、豊かになれる、

失業者を減らすことができると考えたのがジョン・メイナード・ケインズです。

ケインズの理論は世界中の政治に大きな影響を与え、これによって資本主義が生き延びたとも

言われています。

日本でも景気が悪くなると、政府が赤字国債を発行して道路をつくったり橋を架けたりして

公共事業を増やせば景気がよくなるという議論が行われますが、これはケインズ理論に基づいて

います。

ケインズがこの理論を打ち立てるまでは、赤字国債を発行する発想はありませんでした。

ケインズ理論により、景気対策には公共事業という常識が生まれたのです。

 

ジョン・メイナード・ケインズ John Maynard Keynes(1883〜1946)

イギリスの経済学者。雇用の創出をするために公共事業への積極的な財政出動を主張した。

主著に『雇用、利子および貨幣の一般理論』

 

国債:国が歳入の不足を補うために発行する債券のこと。

使途により赤字国債、建設国債などがある。

 

ケインズ経済学のきっかけは世界恐慌だった

ケインズが彼の理論を考えるきっかけとなった出来事が、1929年から始まった世界恐慌です。

世界恐慌が起こる前までは、世界の国々では「均衡財政政策」という経済政策をとっていました。

政府は、国民や企業が納めた税金の枠内のお金を使って国民のための仕事をしなさい。

赤字なんてつくっちゃいけませんという考え方です。

 

世界恐慌:1929年、ニューヨーク株式市場での株価大暴落を発端に、世界的に大規模な経済恐慌と

なった。

 

均衡財政政策:政府支出をすべて税金で補うこと。

 

古典派経済学における「失業」とは?

ケインズ以前の古典派と呼ばれる経済学では、大量の失業者が出るのは失業した労働者に問題が

あると考えられていました。

そこでケインズは、そうではない、非自発的失業者が存在するんだと言いました。

わざわざ「非自発的失業」という言葉を使ったということは「自発的失業」があると考えていた

人たちがいたからです。

自発的失業とは、安い給料で働こうとしないから自分で失業しているという状態を選んでいると

いうことです。それに対し、ケインズは企業が採用を手控えて、働きたくても働けない非自発的な

失業が存在すると考えました。だから非自発的失業者を救済するしくみをつくっていくことが、

景気をよくしていくことだと主張したのです。

 

古典派経済学:ケインズ以前の18世紀後半から19世紀前半にかけて活躍したアダム・スミスや

リカードなどのイギリスの経済学派のこと。

 

非自発的失業者:働きたくても働けない失業者

 

ケインズが考えた失業対策

そこでケインズは、企業にお金がなくて従業員を雇えないのであれば、政府がお金を出して雇用が

生まれるようなしくみをつくればいい。そのためには公共事業が必要だと考えました。

たとえば失業者が大勢いて景気が悪いときに、国が100億円の新しい財政支出をしたとします。

政府が100億円を支出したことによって、次々にいろいろな企業の仕事が増え、それぞれの従業員の

給料が支払われる。するとその社員たちの給料やボーナスが増え、買い物をしたりレストランで

食事したりすることで消費が伸びていく。これで景気がよくなっていくことになります。

私たちはそれが当たり前だと思っているかもしれませんが、この考えはケインズによって私たちの

常識になったのです。ケインズがこの理論を発表したときは、そんなやり方があるのかと世界中の

経済学者がびっくりしたんですね。

大変なショックを与えたので、ケインズ・ショックとも言われています。

ケインズは政府が借金をすればいいと考えました。

赤字国債を発行して金融機関や国民に買ってもらう。

借金ですからいずれ返さなければいけないわけですから、国債を発行してお金を得て、

そのお金で新しい公共事業をして景気がよくなっていけば、建設会社の利益が上がり税金を納めます。

従業員に給料が入れば、税金を納めたり、買い物や外食をしたりすることによって商店や

レストランにもお金が入る。商店なども税金を納める。

こうした財政支出したお金が税金としてまた戻ってくる。

その戻ってきたお金で国債の借金を返せばいい。

一時的に財政赤字は出ますが、回り回ってやがて赤字が解消される、だから財政はやがて

均衡するんだ、というのがケインズの考え方です。

 

財政支出:国がお金を出し予算を使うこと

 

 

 

この続きは、次回に。

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