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ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ⑥

Part2  競争戦略の誤解

 

第3章   あなたの会社の戦略がうまくいかない、最も根本的な理由

 

多くのビジネスパーソンが自社の戦略に悩んでおり、それを考えるヒントを得るために

「経営戦略」の考え方・フレームワークを勉強されているということです。

私が驚いたのは戦略がうまくいかないそもそもの「根本的な理由」について、ビジネスパーソンの

間で経営学の知識共有が進んでいないことです。

その「根本的な理由」とは「企業の『戦略』にはそれぞれ通用する範囲がある」ということです。

本章では、日本企業を考える上で有用な「戦略の通用する範囲」について、世界の経営学による知見を

紹介していきましょう。

 

✔️ 代表的な二つの競争戦略

 

本題には入る前に、「経営戦略」についておさらいします。

経営学は、企業の戦略を「競争戦略(事業戦略)」と「企業戦略」に大別します。

前者は「特定の業界・市場で、企業がどのような戦い方をしていくか」を考えるもので、

後者は「複数の業界にまたがってビジネスをする企業が、全体としてどのように戦略を進めるのか」を

考える分野です(広義の多角化戦略と言えます)。

今回は、前者の競争戦略に焦点を絞りましょう。

競争戦略で特に代表的で、欧米MBAの授業で誰もが学ぶのは、いわゆる「ポーターの競争戦略」と

「リソース・ベースト・ビュー」(RBV)です。それは以下のようなものです。

 

● ポーターの競争戦略(SCP戦略)

 

SCP戦略とも呼ばれるこの戦略は、米ハーバード大学のマイケル・ポーターが中心となって

発展させたもので、1980年代以降の競争戦略の代名詞になっています。

代表的なフレームワークが、「ポジショニング戦略」です。

ポジショニングとは「業界内のライバルと比べて、自社がどのような製品・サービスを顧客に

提供していくか」を考えるものです。

この「ポジション」は2種類に分かれます。

一つは、同業他社と差別化した製品・サービスを提供して顧客に追加価値を提供する「差別化戦略」で

あり、もう一つはコスト削減に注力して、例えば同業他社よりも低い価格をつけて市場シェアをとる

「コストリーダーシップ戦略」です。

一般に両戦略を同時に実現することは難しいと言われており、企業・経営者にはそのどちらかを

重視するか、メリハリのあるポジショニングが求められます。

 

● リソース・ベースト・ビュー(RBV)

 

SCP戦略と対比するように使われるのがRBPです。

米ユタ大学のジェイ・バーニーを中心に90年代に打ち立てられた考えで、「企業の競争優位に

重要なのは、製品・サービスのポジションではなく、企業の持つ経営資源(リソース)にある」とする

考え方です。経営資源の代表例は、なんといっても人材や技術でしょう。

優れた人材、他社がまねできない技術、といった自社の「強み」を磨くことで企業は安定して

高いパフォーマンスを実現する、という考え方です。

 

● 三つの競争の型

 

バーニーは、競争戦略を考える上では「三つの競争の型」の理解が重要であり、型ごとに

適用できる経営理論が違うことを説明します。

それは以下の三つです。

 

①    IO(industrial Organization、産業組織)型:

 

業界構造が比較的安定した状態で、その構造要因が企業の収益性に大きく影響する業界です。

IO型競争の代表は、米シリアル業界やコーラ飲料業界でしょう。

そして、IO型競争をしている業界で有効な戦略は、ポーターのSCP戦略です。

なぜなら、SCP戦略はそもそも「競争環境が寡占化に進むほうが、企業は安定して高い収益を

上げられる」という前提に立った考えだからです。

 

②    チェンバレン型:

 

IO型よりも参入障壁が低く、複数の企業がある程度差別化しながら、それなりに激しく競争する型です。

この型では「差別化しながら競争すること」が前提になっているので、その「差別化する力」を

磨いていくことこそ、各社が重視すべき戦略になります。

結果、各社は少しでも優れた(差別化された)製品・サービスを提供するために、自社の技術力や

サービス力に磨きをかけます。従ってこの型の業界では、技術・人材などの経営資源に注目する

RBVに基づく戦略が有用なのです。

「これまで日本から国際競争力のある企業を生み出してきた業界の多くは、チェンバレン型だった」と

いうのが、私の認識です。

 

③    シュンペーター型:

 

この型の最大の特徴は、「競争環境の不確実性の高さ」にあります。

例えば、「技術進歩のスピードが極端に早い」「新しい市場で顧客ニーズがとても変化しやすい」と

いった競争環境です。

もちろんIO型でもチェンバレン型でもビジネスに不確実性はつきものですが、それが際立って

顕著な環境といえます。

現在なら、ネットビジネスを中心としたIT(情報技術)業界は典型的なシュンペーター型といえるでしょう。

バーニーが1986年のAMR論文で提示したこの「競争の型」を、今こそ日本に当てはめることが重要だ、

と私は考えています。なぜなら(これは私の仮説ですが)、「競争の型」と「そこで求められる各社の

戦略」の関係がビジネスパーソン・経営者に理解されていないが故に、日本企業が取る戦略が

ちぐはぐになっているのではないか、と考えているからです。

 

 

この続きは、次回に。

 

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