ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ㉗
世界はフラット化していない
さらにグローバル化のパターンについても、新しい知見が出てきました。
それは、「グローバル化はフラットか、スパイキーか(フラットの逆で、ギザギザしているという意味)」と
いう視点です。
最近は、モノ・カネ・人などが世界中のあらゆる国・地域でまんべんなく行き渡ることを、「フラットな
世界(Fiat World)」という言葉で総称することがあります。
この言葉は、ジャーナリストのトーマス・フリードマンが2005年に発表した著書『The World Is Flat.A
Brief History of Twenty-First Century』(Farrar Straus & Giroux刊)で使い、今や世界中で使われて
います。語感もいいので、日本のメディアで使われることもあります。
しかしこれに対して、多くの経営学者(と経済学者)たちは、フリードマンのこの感覚的な主張を批判して
います。先のゲマワットがまさにそうです。
ゲマワットは先に述べたような傍証から世界はセミ・グローバリゼーションにあり、フラットになど全く
なっていない、と述べました。
UCLA(米カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の国際経済学者エドワード・リーマーも、2007年に
「ジャーナル・オブ・エコノミック・リタラチャー」に発表した論文の中で、様々な角度から「フラット化
する世界」を手厳しく批判しています。
さらに加トロント大学のリチャーヘド・フロリダは、多くの学術論文やメディアへの寄稿を通じて、
「世界中の経済活動、特に知的活動や起業活動などは、特定の都市など狭い地域への集中が進んで
いる。すなわち世界はむしろスパイキー化しつつある」と主張しています。
ベンチャーキャピタルの国際化に見られる矛盾
国境を超えたビジネス、投資にも、フラットではなくスパイキーな傾向が見られることを示したのは、
私がニューヨーク州立大学パッファロー校のヨン・リーとピッバーグ大学のラビ・マドヴァンと共に、
2011年に「ストラテジック・アントレプレナーシップ・ジャーナル」に発表した論文です。
そもそもVC投資には、ローカル化する傾向があります。なぜなら、ベンチャー・キャピタリストは
投資先を選定するために投資候補の起業家に何度も会う必要がありますし、投資後も頻繁に投資先企業の
経営をチェックし、様々なアドバイス(ハンズオン)をすることもあるからです。人間同士の密な交流を
必要とするビジネスなのです。
したがってベンチャー・キャピタリストは、距離が近いスタートアップに投資しがちです。
この近接性を好む傾向により、シリコンバレー、ボストン、シアトルなどの特定の地域にVC投資が
集中する「スパイキー化」が起きるのです。
ところが近年になって、米国から海外へのVC投資や、逆に海外VC企業の米国への投資が急速に増えて
きています。
これまでローカルでスパイキーだったVC投資で、グローバル化が進展しだしたのです。
すなわち、グローバル化とローカル化が同時に起きているのです。
この矛盾を説明するために、私たちは「スパイキーな国際化(Spiky Globalization)」という新しい国際化の
パターンを提示しました。
これからはスパイキーなグローバル化が進む?
これは「VC投資のような、情報集約型で人と人の交流を必要とするビジネスの国際化は、国と国の間で
起きるのではなく、ある国の特定の地域と別の国(の特定の地域)で集中して起きるのではないか」と
いう考えです。
※ 省略致しますので、購読にてお願い致します。
この「スパイキーな国際化」の分析は緒についたばかりであり、さらなる研究が求められています。
しかし、これはいま興隆している多くのスタートアップ活動やVC投資がそうであるように、ビジネスが
情報集約型になって人と人との密な興隆が重要になればなるほど、「国と国」という広すぎる単位で
グローバリゼーションを捉えることに意味がなくなることを示唆しています。
最近は東京の渋谷、京都、福岡などで若い起業家が集積しつつあります。
今後は日本でも、都市・地域間で「企業の活性化競争」が活発になるでしょう。
日本の起業社会が海外のダイナミズムを取り込むには、このスパイキー・グローバリゼーションを前提に、
国単位ではなく、各都市が独自に海外都市との連携を積極的に図ることも有用かもしれません。
単純なグローバル化論から、一歩引いた視点を
前章・本章と、日本のビジネスメディアでなんとなく使われている「グローバル」について、最先端の
経営学(と経済学)の知見を紹介してきました。
本稿の主旨は、日本企業がグローバル化できていないとか、それがダメとかいうことではありません。
私の主旨は、「グローバル」という言葉を独り歩きさせないで、その意味合いをきちんと整理すること、
そして世界各国の企業・経済動向を定量データから客観的に把握することの重要性です。
昨今の「何でもグローバル」の風潮では、何だか世の中、モノも情報も人も企業も、何もかもが全て
世界中で均一につながってワーッと押し寄せてきている、世界はフラットになっている、世界の距離は
縮まった、という印象を抱きがちです。
「強い多国籍企業は世の中の市場を支配している」と言ったイメージもあるかもしれません。
しかし、経営学(あるいは経済学)では、このような単純なグローバル化の視点に待ったをかける研究・
論考が出てきているのです。
こういった視点からみなさんのビジネスを考え直してみることも、有用ではないでしょうか。
この続きは、次回に。