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ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学 ㊵

18章  CSR活動の思わぬ副次効果とは

 

最近はCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)という言葉が日本でも定着してきました。

CSRとは「民間企業が利益だけを優先するのではなく、幅広いステークホルダーを重視しながら社会に

貢献する」ことを指します。環境保護活動や、途上国への支援活動はその代表例です。

他方で、CSRにはいまだに懐疑的な声もあります。

もちろん企業が社会に貢献するのは素晴らしいですが、それにはコストがかかります。

「収益を上げることで必死な民間企業に、社会活動をする余裕はない」と言う方もいるでしょう。

こういう批判を受けてか、最近は米ハーバード大学のマイケル・ポーターにより打ち出された

CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)という、社会貢献とビジネスを融合させた考えも、

広まってきました(日本では、例えばキリンがCSVに取り組んでいることがよく知られています)。

いずれにせよ、社会貢献であるCSRは「企業の『金食い虫』になりかねない」という懸念が残ります。

しかし、もし「CSRが意外ともうかる」ならどうでしょうか。

「CSRが企業業績にプラスか、マイナスか」という疑問は、多くのみなさんが興味あるところでしょう。

実は、世界の経営学では「CSRは企業収益に貢献する」という研究結果が、近年多く出てきています。

さらに、CSRの副次的なプラス効果も指摘されています。

もしそうなら、私たちは「CSRは金食い虫」という考え方を改めなければなりません。

本章では、世界のCSR研究の、最新の知見を紹介していきましょう。

 

✔️ CSRは企業の業績を高める

 

「CSRが業績にプラス」という可能性は、これまでも一般メディアやCSR推進派の方々から主張される

ことがありました。しかし、大体はこういう場合、1社か2社の成功事例を取り上げて、何となく「業績にも

プラスではないか」と述べるぐらいだったはずです。

それに対して世界最先端の経営学では、企業のCSR活動とその後の利益率・企業価値との関係について、

大量の企業データを使った統計分析がたくさんあります。

 

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✔️ なぜCSRはもうかるのか

 

なぜ「CSRは業績にプラス」になり得るのでしょうか。経営学では、主に二つの点から説明されています。

 

第一に、「CSR活動は、周囲のステークホルダーからの評価を高め、それが好業績につながる」という

説明です。例えばCSRが顧客に評価されれば、顧客はその企業製品を積極的に買うかもしれません。

より優れた人材を獲得しやすい可能性もあります。行政のサポートも得やすくなるかもしれません。

 

第二に、「CSRは自社の人材強化につながる」という主張もあります。

CSR活動を通じて多様なステークホルダーと交流できるので、従業員や管理職の知見が広がるという

意見です。また、「CSR活動をすると社会全体のことを考えるようになるので、経営者・管理職が将来を

見通す力を養える」という主張もあります。

こういうことが、長い目で見た企業競争力の強化につながるというわけです。

 

✔️ CSRで印象が高まる「イメージ効果」

 

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中でも、CSRが「消費者イメージ」を向上させる可能性に注目しました。

CSR活動をすれば、それを知った消費者からの印象が良くなることは十分にあり得るでしょう。

CSRの「イメージ効果」です。

そこでセルバエス達はさらに統計分析をし、その結果として、広告費を多く使うタイプのいわゆる

BtoC系の企業で「CSR→業績」のプラス効果を確認したのです。

逆に広告費をあまり使わないBtoB企業では、「CSR指数が高いほど、業績はむしろマイナス」という

結果になりました。

実際のところ、企業もこのことは意識しているのかもしれません。例えば、日経リサーチによる日本

企業のCSRに関連するランキング(2014年)の上位10社のリストを見ると、1位のセブン&アイ・ホール

ディングスを筆頭に、ほとんどBtoC系になっています。やはり消費者イメージを意識する企業の方が、

CSRには熱心なようです。その意味では、ランクインしている東レはBtoBに近いですから、大健闘と

いえるでしょう。

 

✔️ CSRの情報開示効果

 

さらに近年は、CSRの副次的な効用も注目されています。

例えば、米ハーバード大学のベイティン・チェンらが2013年に「ストラテジック・マネジメント・

ジャーナル」(SMJ)に発表した研究では、世界49カ国の2000以上の企業データを使い、「CSR指数が

高い企業のほうが、資金制約を緩和できる」という結果を得ています。

資金制約が緩いということは「キャッシュが自由に使える」ということです。

CSRは企業の財務状況の改善に寄与するのです。

チェンたちはこの理由を、CSR活動の「情報開示効果」に求めます。

例えば、企業がCSR報告書を作れば、それは従来のIR活動を超えて、会社の内部情報を公開することに

なります。それが結果として企業の透明性をさらに高め、投資家の信頼を増し、資金調達をしやすく

するというのです。

 

✔️ 「無責任指数」で見たCSRの保険効果

 

さらに最近注目されているのが、CSRの「保険効果」です。

米ブリガム・ヤング大学のポール・ゴドフレイたちが2009年にSMJに発表した論文がその代表です。

ゴドフレイ達は、1992年から2003年の間に、米上場企業が「消費者から訴えられたり、政府から何らかの

制裁を科せられたりする」などの、「ネガティブな事件」に巻き込まれた事例254件を抽出しました。

そして、事件に巻き込まれた企業のCSR指数と、事件発生後の各社の株価変動を統計分析したところ、

CSR指数の高い企業のほうが、ネガティブ事件による株価の落ち込みが「軽度で済む」という結果に

なったのです。

 

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そして分析の結果、カトリーナが米南部を襲ったとき、各社の株価が軒並み下がる中で、「無責任指数」が

高い企業ほどその下がり幅が特に大きくなったのです。逆に言えば、「それなりにCSR指数が高かった

企業は、株価の落ち込みを抑えられた」ということになります。

これらの結果は、「日ごろからCSR活動をきちんとしていれば、企業イメージや透明性が向上し、

いざネガティブな事件に巻き込まれても、投資家が極度の不信を起こさずに済む」ということを示して

います。まさに、いざという時の「保険効果」です。

 

 

この続きは、次回に。

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