人を動かす経営 松下幸之助 ⑯
・ 私が説得された話—住友銀行と取り引き開始
我々は人を説得するだけでなく、逆に人から説得されることもある。
うまく説得されたなと思うこともあれば、断っているうちに、断りきれなくなって説得されたという
場合もあろう。
そういうように説得された場合、どうして説得されてしまったのかというと、理由はいろいろあると
思う。しかし、その一つの大きな理由は、やはり相手の熱意というか、熱心さがあったからではない
だろうか。
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私は、なかなかうまいことを言うなと思った。けれども、それで特別に心が動かされたわけではない。
だから、もう勧誘にはこないでほしいと念をおしたのだが、個人的に遊びにくるのはかまわない、
歓迎する、と言っておいた。熱心さに感心していたからである。
すると、少したつとまたやってきた。そしてまた熱心に勧誘する。
住友銀行と取り引きすることがいかに松下電器の発展にとってプラスになるか、一生懸命に説く。
そして懇願する。ついにその熱心さに私は負けた。とうとう負けてしまった。心が動いたのである。
前回、ゆっくりと腹を割って話しあったので、なんとなく親近感も生まれ、情にほだされてしまった
のである。人間の心というものは、まことに妙なものである。
しかし、これが自然の人情というものではなかろうか。
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「どんな条件でしょうか。おっしゃってください。できるだけ便宜をはからせていただきます」
私はじっと相手の真剣な表情を見つめた。松下電器の将来性を信じて、そして松下電器の発展のために
取り引きを開始しようというのだから、ここは松下電器に対して大きな信用を与えてもらわなければ
ならない。それでこそ、新たに取り引きを始める意義もある。
そうでなければ、取り引きを始める意義はうすいといわねばならない。
そこで私は、当初から二万円までは必要に応じて貸付をしてくれる、ということを条件として出した。
これは当時としては相当な優遇を条件にしたわけである。
それで、この条件をめぐって、次項に触れるような経過があったわけである。けれども、結論として
私の希望は入れられた。いってみれば、説得したりされたりの取り引き開始であった。
ただ、この住友銀行との取り引きを開始したおかげで、松下電器が昭和二年の危機を乗り越えることが
できたことは、たしかである。
この続きは、次回に。