危機の時代 ジム・ロジャーズ ㉓
・EUから離脱する国が増えるリスク
欧州大陸の多くの国々の政治家たちは、英国と同じような道を選ぼうと
するだろう。なぜなら、ブレグジットが成功したからだ。
イタリア、フランス、スペインなど、さまざまな国で「EUから離脱しよう」と
叫ぶ政治家はたくさんいる。そう唱えることで票を得ることができるなら、
政治家がEU離脱を公約に掲げるのは当然だ。
今後、EUから脱退する国が増えていく可能性がある。
今当たり前とされている世界は、15年後には全く違うものになっているはずだ。
私たちが今信じていることは、真実でなくなるだろう。
1930年の日本を想像してほしい。
1945年に国土が焦土化し、戦争に敗北している姿を誰が予測できただろう。
タイムマシンに乗って1930年に戻り、当時の日本人に話しても、きっと
誰もそれを信じないだろう。
・揺らぐ金融センターの地位
ロンドンの地位はどうなるのか。
ブレグジットによって、英国からスコットランドや北アイルランドが
脱退すれば、混乱が生じるだろう。
ロンドンはもはや、ビジネスをするうえで素晴らしい場所ではなくなる
はずだ。企業は自社の拠点をアムステルダムに移転するか、それとも
ベルリン移転するかを検討することになる。
欧州の金融の中心地がロンドンである必然性はないからだ。
英国を去り、代わりに欧州大陸のEU加盟国のどこかに金融センターを
置こうと考える企業があっても、何の不思議もない。
EU域内でビジネスをするためにロンドンに拠点を置いている金融機関なら、
「英国が脱退するなら、ほかの都市に拠点を移そう」と考えるのは自然だ。
英国には大きな負債があり、財政は悪化している。
英国にはもう海外に輸出できるような多くの製品がない。
英語という言語があるだけで、かつて製造していたクルマやオートバイも
ほとんどなくなっている。
英語という言語のおかげで教育だけは残っているが、産業という意味では
ほかに見るべきものは少ない。英国は輸出産業としての農業も弱い。
テクノロジーも国際競争力は明らかに弱い。
150年前の英国は、製造業を含むあらゆる産業で世界的に高い競争力を
持っていた。造船、機械、鉄鋼、繊維——。
すべての分野で英国は最先端を走っており、世界を圧巻していた。
しかし今では状況が完全に異なっている。
このため、EUを離れることになった英国は難しい状況にある。
スコットランドや北アイルランドが分離しなくても、英国には莫大な借金が
あるのが問題になる。彼らはもはや世界に売るものがない。
原油は永遠に続くものではなく、EV(電気自動車)化が進むことで、自動車は
今後ガソリンを消費しなくなっていく。
英国はかつて多くの産業を支配していた。
銀行業と投資銀行業で圧倒的な強者だった。
偉大な英国の商業銀行はもはや存在しないようなものだ。
50年前には偉大な銀行があったが、もうのこっていない。
この続きは、次回に。