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危機の時代 ジム・ロジャーズ ㉞

・MMTはタダで食事を配るような考え方

 

今注目を集めているのはMMT(Modern Monetary Theory:現代貨幣理論)だ。

 

「自国の通貨建てで、政府が国債などを発行してお金を借りて赤字が

増えても、インフレにならなければ問題がない」とするような理論だ。

いくらでも借金をして、財政赤字になっても問題がないという驚くべき

考え方と言えるだろう。

それはみんなのためにタダで食事を配るようなものだ。

無料のランチは素晴らしい。誰もがほしがり、正しいように思える。

MMTはしばらく機能するかもしれないが、いつか誰かがそのツケを

支払わなければならない。

 

最終的に、誰かが本物の富を生み出さなければならない。誰かがコメを

育てなければならない。コメは天から降ってくるのか。決してそうではない。

MMTは素晴らしい理論で、素晴らしい無料のランチをみんなに振る舞って

くれるのかもしれない。しかし、最終的には誰かが実際に本物の商品や

本物のサービスを生産する必要がある。仕事に行かないで、毎晩クラブに

行って異性と遊んで、お金をたくさん使い、日本のとびきりのウイスキーを

買う。そんなことがあっていいのか。

 

2008年のリーマン・ショックを受けて、米国の中央銀行であるFRBは

こう言った。私たちは世界を救わなければならない。彼らはたくさんの

お金を印刷し、たくさんの借金を積み上げた。

10年間はすべてがうまくいった。それがMMTであり、現代紙幣理論だ。

MMTは、誰にとっても無料の食事だ。西洋人か、西洋人のような教育を

受けたどこかの国の人が、いつかMMTでノーベル経済学賞を受賞する

かもしれない。世界が崩壊していなければ。

MMT理論では、ニューヨーク州立大学のステファニー・ケルトン教授が

有名だ。彼女は、経済学では実績があるとは言えないかもしれないが、

お金をばらまきたいと思っている世界の政治家に非常に大きな影響を

与えている。

 

・ベーシックインカムの議論はばかげている

 

AI(人工知能)が進化し、人間から仕事を奪うという議論もある。

2050年までに人間がクルマを運転しないようになるという専門家もいる

はずだ。未来は「脱労働社会」になるとの意見もあり、仕事がなくなる

時代に備えて、国民の最低限の所得を補償する「ベーシックインカム」

という制度も議論されている。

だが、人々が働くことに対するインセンティブを持たないなら、私たちは

進歩しないだろう。誰もが無料の食事をもらえるならば、あなたはむしろ

北朝鮮やかつてのベトナムのような社会主義国に移住した方がいいだろう。

何百年もの間、政治家から、哲学者、神学者までさまざまな人々が、貧困

問題を解決する方法を議論してきた。これまでのところ、資本主義だけが、

人々が頑張って働こうとするインセンティブを与えられるシステムだ。

人間は何百年もの間、「ゲーム=競争」を続けており、一部の人は他の

人に勝って、豊かになっている。誰かが勝てないようなケームは存在しない。

そして、ゲームに参加した全員が同じ結果になるなら、ゲーム自体が成立

しない。コンペティション(競争)が社会には必要だ。

競争やインセンティブは欠かせない。

 

あなたが3台の車が欲しくて、お金があれば所有できることを知っている

なら、そのために一生懸命働くだろう。

しかしいくら頑張っても、3台の車を所有できないことが分かっているなら、

おそらく必死になって働こうと思わないだろう。

かつて社会主義の世界ではそのようなことが起きた。

人々は、おそらく寝そべって、「私はすでにクルマを持っており、これが

自分の持つことができるすべてだ」と言うだろう。いくら頑張っても

報われないなら、人間は努力しないようになる。

人類はこれらの問題を解決するために何千年も努力してきた。

一部の人々は、競争は恐ろしい、資本主義は恐ろしいと言う。

しかし競争があることは、どんな社会にとっても良いことだ。

勝ち負けをつけずに野球をした場合、それは非常に退屈なものになって

しまうだろう。そして、おそらく野球をする人はあまりいなくなる。

競争はなくなり、試合もなくなってしまう。

何千年もの間、人類は互いに競争するためのゲームを考え出し、一方が

他方に勝つようにした。ベーシックインカムは、人間の本性を変えようと

するようなアイデアであり、ばかげている。

 

・シリコンバレーはイノベーションの聖地で亡くなる

 

かつて革新的な技術は常にシリコンバレーから生まれると言われてきた。

たぶん10年前、20年前はそうだったのかもしれないが、今は、必ずしも

そうではない。中国発の新しいテクノロジーが次々に生まれており、広東省の

深圳はその中核の1つになっている。

深圳はとても刺激的で、その象徴のような都市だ。

中国は毎年、多くのエンジニアを誕生させている。その数は、米国の10倍に

なると言われているほどだ。

もちろんすべてのエンジニアが優秀なわけではない。それでも数が多ければ、

非常に優秀なエンジニアが当然たくさんいる。

こうした中国のエンジニアは非常にエキサイティングなことをやろうと

している。だからこそ、私は自分の子供たちに中国語を学ばせている。

中国には米国よりもはるかに多くのエンジニアがいる以上、米国よりも

ずっと多くのイノベーションを生み出す可能性がある。

シリコンバレーはイノベーションの聖地と呼ばれてきたが、それは過去の

ものになるだろう。未来はそうではなくなる。

あなたが今、常識だと思っていることは、15年後には真実ではない。

あなたが知っているすべては変わることを忘れないでほしい。

2035年には、シリコンバレーの地位は劇的に変わっているだろう。

私はとりわけ深圳が、イノベーションの新たな〝聖地〟として今後ますます

存在感を高めていくと考える。

100%の確信があるわけではないが、きっとそうなる。

とりわけ香港で起きていることは、深圳にとって素晴らしいことだ。

人々が国境を越えて移動する場合、両都市は地理的に近いので、深圳は

非常に有利な立場にある。

インドのバンガロールも存在するが、あえて1つだけ選べと言われるならば、

私は深圳を選ぶだろう。シリコンバレーやイスラエルのテルアビブよりも、

深圳がイノベーションを生み出す力で先を行くと思っている。

 

 

この続きは、次回に。

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