お問い合せ

「D・カーネギー 人を動かす」⑯

4. 命令をしない

 

● 私はかつて、アメリカで一流の伝記作家、アイダ・ターベル女史と

    食事をともにした。

 

 私が『人を動かす』を執筆中だと彼女に言うと、話題は人間関係の

 諸問題に移り、活発な意見が交換された。

 彼女は、オーウェン・ヤングの伝記を書いている時、ヤングと三年間

 同じ事務所に勤めていたという男に会って、ヤングのことをいろいろと

 聞いたという。

 それによると、ヤングは誰に向かっても決して命令的なことは言わな

 かったそうだ。命令ではなく、暗示を与えるのだ。

 「あれをせよ」「そうしてはいけない」などとは決して言わなかった。

 「こう考えたらどうだろう」「これでうまくいくだろうか」などと

 いった具合に相手の意見を求めた。手紙を口述して書かせたあと、

 彼は「これでどう思うかね」と尋ねていた。彼の部下が書いた手紙に

 目を通して「ここのところは、こういう言い方をすれば、もっとよく

 なるかもしれないが、どうだろう」ということもよくあった。決して

 命令せず、自主的にやらせた。そして、失敗によって学ばせた。

 こういうやり方をすると、相手は自分の過ちが直しやすくなる。

 また、相手の自尊心を傷つけず、重要感を与えてやることにもなり、

 反感の代わりに協力の気持ちを起こさせる。

 押しつけがましい命令は、あとにしこりを残す。

 たとえそれが、明らかに誤りを正すためであっても、そうだ。

 

● 命令を質問の形に変えると、気持ちよく受け入れられるばかりか、

    相手に創造性を発揮させることもある。命令が出される過程に何らかの

    形で参画すれば、誰でもその命令を守る気になる。

 

 

【人を変える原則④】

 

   命令をせず、意見を求める。

 

 

5. 顔をつぶさない

 

● 相手の顔を立てる! これは大切なことだ。しかも、その大切さを理解

 している人は果たして何人いるだろうか? 自分の気持ちを通すために、

 他人の感情を踏みにじっていく。相手の自尊心などはまったく考えない。

 人前もかまわず、使用人や子供を叱り飛ばす。もう少し考えて、一言

 二言思いやりのある言葉をかけ、相手の心情を理解してやれば、その

 ほうが、はるかにうまくいくだろうに!

 従業員たちを、どうしても解雇しなければならない不愉快な場合には、

 このことをよく考えていただきたい。

 

● たとえ自分が正しく、相手が絶対に間違っていても、その顔をつぶす

 ことは、相手の自尊心を傷つけるだけに終わる。

 あの伝説的人物、フランス航空界のパイオニアで作家のサンテグジュ

 ペリは、次のように書いている。

 

 「相手の自己評価を傷つけ、自己嫌悪におちいらせるようなことを

 言ったり、したりする権利は私にはない。

     大切なことは、相手を私がどう評価するかではなくて、相手が自分

     自身をどう評価するかである。

 相手の人間としての尊厳を傷つけることは犯罪なのだ」

 

 

【人を変える原則⑤】

 

   顔を立てる。

 

 

6. わずかなことでもほめる

 

● ビート・バーローというサーカスの団長と私は昔から親しくしていた。

 彼は犬や子馬を連れて、各地を巡業していた。

 私はピートが犬に芸を仕込むのを見て、大変面白いと思った。

 犬が少しでもうまくやると、なでてやったり、肉を与えたりして、

 大げさに褒めてやる。

 このやり方は、決して新しくない。動物の訓練には、昔からこの手を

 用いている。我々は、このわかりきった方法を、なぜ人間に応用しないの

 だろう?

     なぜ、鞭の代わりに肉を、批評の代わりに賞賛を用いないのだ?

 たとえ少しでも相手が進歩を示せば、心からほめようではないか。

 それに力を得て、相手はますます進歩向上するだろう。

 

● 心理学者のジェス・レアーは次のように書いている。

 

 「ほめ言葉は、人間に降り注ぐ日光のようなものだ。それなしには、

 花開くことも成長することもできない。我々は、事あるごとに批判の

 冷たい風を人に吹きつけるが、ほめ言葉という暖かい日光を人に注ごう

 とはなかなかしない」

 私の過去にも、わずかなほめ言葉で私の人生がすっかり変わった経験

 がある。誰にでも、これと同じような経験があるのではないか。

 人間の歴史は、ほめ言葉のもたらす魔法の例に満ち満ちている。

 

● 誰でもほめてもらうことはうれしい。だが、その言葉が具体性を持って

 いてはじめて誠意のこもった言葉、つまり、ただ相手を喜ばせるための

 口先だけのものでない言葉として、相手の気持ちをじかに揺さぶるので

 ある。我々には、他人から評価され、認められたい願望があり、その

 ためにはどんなことでもする。だが、心のこもらないうわべだけのお

 世辞には、反発を覚える。重ねて言う。本書の原則は、それが心の底

 から出る場合に限って効果を上げる。

 小手先の社交術を説いているのではない。

 新しい人生のあり方を述べているのである。

 人を変えようとして、相手の心の中に隠された宝物の存在に気づかせる

 ことができたら、単にその人を変えるだけでなく、別人を誕生させる

 ことすらできるのである。

 

● アメリカが生んだ最も優れた心理学者であり哲学者でもあるウィリアム・

 ジェイムズの次の言葉に耳を傾けるとよい。

 

 「我々の持つ可能性にくらべると、現実の我々は、まだその半分の

 完成度にも達していない。

 我々は、肉体的・精神的資質のごく一部分しか活用していないのだ。

 概して言えば、人間は、自分の限界よりも、ずっとせまい範囲内で

 生きているにすぎず、いろいろな能力を使いこなせないままに放置

 しているのである」

 

 これを読むあなたも、使いこなせず宝の持ち腐れになっている能力を

 種々備えているのだ。

 批判によって人間の能力はしぼみ、励ましによって花開く。

 

【人を変える原則⑥】

 

   わずかなことでも惜しみなく

 心からほめる。

 

 

 

この続きは、次回に。

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