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リテールマーケティング  ⑳

5. 普及が進むセルフレジ

 

1. タイプ別POSレジの概要

 

(1) POSレジとは

 

POSレジとは、顧客に商品を販売した際の金銭のやり取りなどの情報を、

販売した時点で瞬時に記録・集計するシステムを備えたレジである。

そしてコンピュータに蓄積した販売データからあらゆる分析や管理を行う

ことができるようになっている。

POSレジには売上分析機能や顧客管理機能、在庫管理機能が備わっており、

さらに、複数店舗で集計・記録したデータを瞬時に統合することもできる

ため、各店舗の売上の一元管理が可能となっている。

POS機能を搭載していない旧来のレジスターとの大きな違いは、POSレジは

販売時点でのリアルタイムな情報、すなわち、「いつ」「どこで」「どんな

商品が」「いくらで」「何個」売れたのかを集計・管理・分析できることで

ある。

 

(2) POSレジのタイプ

 

POSレジには、ターミナル型やハンディターミナル型、タブレット型など

さまざまなタイプがあり、導入目的や店舗の規模、用途に合わせて導入

することができる。

 

一、ターミナルPOS

 

スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで導入されているPOS

レジである。買物カゴを置けるカウンターの付いた大型タイプや、小さな

テーブルやデスクの上に置ける小型タイプもある。

ターミナルPOSは操作性が高く、多くの店舗で導入されている。

なお、端末そのものの費用が高く、端末の老朽化による入れ替えも数年

おきに発生するなど、その都度同じ費用がかかることから大規模なチェーン

ストアでの用途が適している。

 

二、PC-POS(パソコンPOS)

 

Windowsなどの汎用性のあるパソコンにPOSシステムをインストールし、

周辺機器を接続してPOS端末として使うタイプのPOSレジである。

PC-POSは、店舗と本部のコミュニケーション用にメールを使ったり、

商品カタログをダウンロードして店舗スタッフの教育に使用するなど、

パソコンとしてPOSシステム以外の作業にも使えることが特徴である。

 

三、ハンディターミナル型

 

ハンディターミナルを専用端末として使用するタイプのPOSレジである。

スーパーマーケットなどでは、発注作業の際に各売場を移動するため携帯性に

優れるハンディPOSが使用される。小型でバッテリーの持ちがよいため、

催事などのイベントや屋外で販売する際に使われることもある。

 

四、スマートデバイス型(タブレットPOS、モバイルPOS)

 

近年、タブレットやスマートフォンをPOS端末として使用するケースが

増えている。たとえば、iPadなどにPOSシステム用のアプリケーションを

インストールして会計処理ができる端末(ネットにつながるレジスター)に

することができる。

クラウドを活用すれば販売データはインターネット経由で格納され、店舗は

タブレットやスマートフォンを準備するだけで使用できるため、導入コストが

比較的安価で、個人商店や数店舗ほどの比較的小規模な小売店向けとも

いえる。

 

2. セルフレジの2つのタイプ

 

近年、スーパーマーケットやコンビニエンスストアといった小売店を中心に

セルフレジが普及している。セルフレジは、大きく「フルセルフレジ」と

「セミセルフレジ」の2種類に分類できる。

 

(1) フルセルフレジ

 

フルセルフレジは、消費者(買い物客)が代金を支払う際、自分で商品の

バーコードをレジの読み取り部分にかざしてスキャンし、袋詰め、精算

まで行うものである。

当初、日本に登場したのは、2003(平成15)年にイオングループがレジ待ちの

解消策として導入したフルセルフレジであった。しかし、バーコードの

読み取りに慣れていない顧客が多く、買い上げ商品の精算に時間がかかり、

かえって行列を生むという状態が見受けられた。

そのため、あまり定着しなかった。その後、従来どおりレジ担当者が

バーコードの読み取りを行うセミセルフレジが登場した。

 

(2) セミセルフレジ

 

セミセルフレジは、顧客が購入した商品のバーコードをレジ担当者が

スキャナで読み取り、精算は別の自動専用端末(精算機)で顧客が行う

もので、特に高齢者などにとっての負担が少ない。

たとえば、やわらかい袋などに印刷されていてバーコードが読み取り

にくい場合や、タイムセールなどでパーコード対応していない割引商品

にもレジ担当者がスムーズに対応するため、レジ待ち解消を期待して導入を

進めている。

一般社団法人全国スーパーマーケット協会などスーパーマーケット業界

3団体がまとめた2019(令和元)年の「スーパーマーケット年次統計調査

報告書」によると、セミセルフレジの設置率(「設置店舗がある」企業の

割合)は57.9%で、比率は年々増加している。

特に、11店舗以上の企業では設置率が80%前後と高くなっている。

一方、フルセルフレジの設置率は11.4%で前年から0.2ポイント減少している。

同業界団体では、人員不足が続くなか、顧客のレジ待ち時間を解消する

ため、精算スピードが速くなるセミセルフレジの導入意向が高くなって

いると分析している。スーパーマーケットの場合、タイムセールの商品に

バーコードが重ねて貼られることもあり、フルセルフレジでの読み取りを

避ける利用客がいるという。

こうした要因などもあり、スーパーマーケットでは今後さらにセミセルフ

レジの導入が進展するものと思わせる。

 

図5-1 セミセルフレジの特徴

 

● レジ担当者が商品のバーコードを読み取り、精算機の番号などを

 指示する。

 

● 読み取りがスムーズにできる。

 

● 精算機の数を増やせばレジ担当者が削減できる。

 

● 複数の精算機で顧客が精算する。

 

 —図は、省略—-

 

3. セルフレジ導入のメリットとデメリット

 

(1) メリット

 

前述したように、セルフレジを導入することで、顧客のレジ待ち時間が

短縮される。また、1台の商品スキャン機に対して複数の精算機を設置

することで、後ろに並んでいる次の顧客を気にして焦って精算する必要が

なくなる。結果として、小売店側は、顧客満足度の向上を期待することが

できる。また、セミセルフレジの場合、レジ担当者は商品のバーコードの

読み取りを行い、「代金のお預かり」「つり銭のレシートのお渡し」などが

不要となるため、レジ業務の効率化(スピートアップ)がはかれると同時に、

つり銭間違いなどレジ担当者の心理的負担も軽減できる。

さらに、従業員が現金に触れないため、衛生環境の向上にもつながる。

また、レジ業務のスピードが向上することで、レジ台数圧縮などのコスト

削減効果やレジ部門の人員の最適化にもつながり、レジ業務に割いていた

時間を接客業務に振り向けることで売場生産性の改善が期待できる。

 

(2) デメリット

 

フルセルフレジの場合、操作に対する戸惑いや嫌悪感、購入点数が多い

場合の読み取り作業の負担感などを想定する必要がある。また、レジの

機械トラブル時の対応や万引き対策のためにも、サポートする従業員を

近くに配置しなければならない。さらに、酒類を取り扱う店舗の場合、

顧客の自己申告に頼らざるを得ないことから、年齢確認が不十分になって

しまう。そのため、このような課題が懸念される場合には、セミセルフ

レジの導入に適しているといえる。ただし、セミセルフレジについても、

精算機のタッチパネル操作ができない顧客もいることを想定し、従来型の

レジを残して併用するなどの対応が求められる。

 

4. レジ業務の効率化の背景

 

こうしたレジ業務の効率化が進む背景には、とりわけ小売業で深刻な

人手不足の問題がある。2018(平成30)年に農林水産省が発表した調査

(「卸売業・小売業における働き方の現状と課題について」)によれば、

全産業の欠員率(未充足求人数を常用労働者で割った数値)が2.1だったのに

対し、小売業は2.9と高い数値であった。

今後さらに高齢化が進み、生産年齢人口が減少していくことが現実視

されるなかで、大幅な人員補充は望みにくい状況といえる。

賃金(人件費)の問題からも業務効率化が求められるなか、今後もレジ業務の

見直しが進められるものと思われる。

また、セルフレジの導入とは別の背景として、外国人労働者の増加に伴う

外国人店員への対応がある。大手コンビニエンスストアのローソンでは、

多言語対応のPOSレジを導入した。

これは、顧客側ではなく店員側のディスプレイが複数言語の表示に対応

しているものである。

外国人店員は日本の現金の扱いに不慣れであることも多く、スピーディー、

かつ、間違いなく精算処理ができるようにするため、POSに自動精算機を

組み合わせてレジ業務の効率を上げている。

ローソンでは、今後の労働人口減少を見据えて「夜間無人店舗」のような

実験も行っており、今後さらに外国人店員が増えることも見越したうえでの

取り組みといえる。

 

 

この続きは、次回に。

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