リテールマーケティング ㉙
2. 真心のこもったおわび状の書き方
販売員は、「お客様に喜んでいただくために」と、日々、接客やサービスに
励んでいる。しかし、どんなに気をつけていても、うっかりミスや勘違い
などによって顧客に迷惑をかけてしまうことがある。
万が一、ミスが起きてしまったら、適切に対処しなければならない。
その際、次の事項に留意する。
1. 顧客に迷惑をかけた場合の基本原則
顧客に申し訳ないことをしたという謝罪の気持ちをしっかり持ち、その
場から逃げようとする気持ちを捨てることが大切である。
・基本原則1:速やかに対処する(結論までに時間がかかる場合は、途中
経過を顧客に随時伝える。)
・基本原則2:そのまま放置しておかない。
・基本原則3:顧客の勘違いであっても、自分(販売員)がそう思わせて
しまったことに対しておわびする。
・基本原則4:顧客の要望を確認しなければ対処していく。
・基本原則5:顧客の満足度を確認しなければ対処していく。
2. おわび状の大切さ
最近は、顧客のクレームに対して電話や口頭のみで伝えて処理をしている
ケースが少なくない。実際、顧客がそのことについては許してくれたと
しても、販売員や小売店を心から許し、再び来店してくれるとは限らない。
販売員は、このような顧客に心から許しを得て、再び来店していただく
ために最善の努力をする必要がある。そのためにも、必ず最後におわびの
手紙を出すことが大切である。
それにより、顧客に「ここまでしてもらえたのだ」「おわびの気持ちが
しっかり伝わった」と思ってもらえる。
しかし、いざ、おわび状を書こうと思うと、「むずかしい」「面倒くさい」と
いう気持ちになりがちである。
そのため参考文例があれば、それを真似て書くだけで済む。
その結果、顧客に許してもらえるかもしれないのである。
3. おわび状の書き方
(1) おわび状を書くときの姿勢
顧客から許しをいただくことが目的である。ポイントを次に示す。
・「申し訳ございません」という心からの謝罪の気持ちを込めて書く。
・クレームへの対処が終わったらすぐにおわび状を書いて出す。
・いくら対応してもお許しを頂けない場合には、おわび状を送り、
誠意だけでも伝える。
(2) おわび状の書き方
謝罪、誠意の「気持ち」さえ伝わればよいわけではない。
それが正しく伝わるためのおわび状の書き方がある。
そのポイントを次に示す。
① 宛名
・縦書きにする(改まった内容は縦書きが一般的)。
・洋封筒の場合も縦書きにする。
② 文章を書くときの注意点
・封書にする(はがきの場合は、誰が読むかわからないため)。
・封書の表に「詫び状在中」などと書かない(おわび状の場合は、
相手にわからないように送るのが礼儀とされている)。
・誤字脱字、丸文字、絵文字、略語などは禁止。
・相手の名前を間違えて書かない(例:斉藤、斎藤、齋藤など)。
・敬語(尊敬語、謙譲語、丁寧語)は間違えずに使う。
・下書きをしてから清書する。
・書き終わったら読み返し、間違いがないか再度確認する。
・文字の色は黒か濃紺を使う。
③ 文章の構成
書き始めは「謹啓」「急啓」などの頭語の後、謝罪の言葉でおわび
するのが適切である。謝罪の文章なので、ビジネス文書一般にある
ような時候の挨拶などは必要ない。
その後、なぜそのようなことになったのかの原因を伝える。
最後に今後の対策とそれに向けた決意を記し、再びおわびの言葉で
終えるのが一般的である。
図2-1 文章の構成
おわびの言葉
・頭語(書き出しの言葉)を書く
<例> 拝啓、謹啓
↓
おわびをする内容、謝罪の言葉
・起こし言葉(本題に入るためのつなぎ言葉)を使う。
<例> さて、このたび、さっそくで恐縮ですが。
・主文(本題)を書く→伝えたい、尋ねたい内容を簡潔に書く
↓
弁済の内容
・代替案、弁償の必要性などがあれば、その意思を明快に書く。
↓
丁寧に終わる
・末文(締めくくりの挨拶文)を書く。
<例> まずは謹んで心からおわび申し上げます。
・結語(頭語とセットになっている言葉)を書く。
<例> 敬具
・日付を入れる→書いた年月日を入れる。
・販売員(自分)の名前を書く。
・顧客の名前を書く(少し大きめに書く)
表2-1 おわび状の文例①
—省略—-
表2-2 おわび状の文例②
—省略—-
■ 参考 —-時候の挨拶—
前述したように、通常、おわび状などの場合は、時候の挨拶(季節を
表す言葉)をしない。しかし、普通の手紙では、頭語の後に時候の
挨拶をするのが常識である。
次に、参考のために記しておく。
<例>
拝啓 新録の候、ますますご健勝のこととお慶び申し上げます。
表2-3 時候の挨拶(例)
■ 春
3月:早春の候/浅春の候、ようやく春めいてまいりましたが
4月:陽春の候/桜花の節、うららかな季節となりましたが
5月:新録の候/若葉の候、風薫る今日このごろ
■ 夏
6月:入梅の候/夏至の候、うっとしい季節となりましたが
7月:盛夏の候/猛暑の候、日ごとに暑さが厳しくなる毎日ですが
8月:残暑の候/晩夏の候、残暑厳しく折から
■ 秋
9月:初秋の候/秋風の候、朝夕はようやくしのぎやすくなりましたが
10月:仲秋の候/紅葉の候、秋も深まってまいりましたが
11月:晩秋の候/落葉の候、朝夕めっきり冷え込むようになりましたが
■ 冬
12月:初秋の候/師走の候、年の瀬も押し迫ってまいりましたが
1月:新春の候/厳冬の候、寒さ厳しき折から
2月:立春の候/厳寒の候、立春とは名ばかりの寒さですが
● 急啓(きゅうけい)
手紙の頭語の一つで、緊急の連絡に用いる表現。
「急ぎ啓する」、つまり「とり急ぎ申し上げる」の意。
急啓の他に「急白」「急呈」などの同様の表現がある。
急啓に対して結語は「草々」で結ぶ。
この続きは、次回に。