書籍「すごい物流戦略」ZARA②
● 倒産危機の経験から生まれた製造小売方式
できあがった商品はできるだけ早く売場に届け、ムダなく在庫を使って
販売機会のロスをなくし、売上げ、利益を拡大させる“Speed Logistics”
製造小売業インディテックス。
この事業モデルがなぜ、どのように生まれたのか。
その背景を知るために、創業者であるアマンシオ・オルテガ氏の生い立ち
からみていきましょう。
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取引先からの注文で製造を考えるのではなく、その先にある販売(川下に
あるお客様が買ってくれるのかどうか)からモノづくりを考えること。
商品の動きが泊まりかけたとき(=需要が谷を迎えたとき)に次のものを
一気に作る。
オルテガ氏が考え出した新たな生産方式はファストファッションとして、
確実に消費者の心をつかみ、今日のインディテックスの隆盛につながり
ました。
オルテガ氏はインディテックスの成長により、スペインの長者番付1位に
ランクされる富豪になりましたが、本社で働く人に聞くと、今でも、
「毎日社員食堂で食事をとり、昔と同じく質素な白いワイシャツを着て
いる」そうです。
● 2000年代に入り、店舗数が急拡大
そして2018年1月現在で、世界96ヵ国、7475店舗(8つのブランドの合計)を
展開するまでに成長してきています。
こうした急速な事業拡大を背景に、インディテックスの株価は上昇基調を
続けています。
・物流センターの在庫は、商品ではなく、生地
これからインディテックスのサプライチェーン(SC)について見ていきたいと
思います。その本題に入る前に、“Speed Logistics”製造小売業としての
インディテックスを可能にしているポイントを簡単に整理しておきます。
まず、各店のマネージャー、カントリーマネージャー、各国の営業担当、
プロダクトマネジャーは、毎日、店・顧客情報を共有します。
現在、世界中に7500近い店舗(うちザラは2251店舗)がありますから、共有
する情報だけでも膨大な量になります。
次に、販売拠点からの発注は週2回。本社からの出荷指示も週2回あります。
生産拠点(工場)は60%がヨーロッパ、アジアを中心としたその他の地域が
40%で、それらのうち自社工場が4割を占めています。
自社工場では型入れ、裁断、裁製、検品、アイロン仕上げ、RFIDタグ
(無線タグ)装着などを行ない、協力工場では生産・縫製を担当しています。
では、サプライチェーン(SC)の流れをもう少し詳しく見ていきましょう。
インディックスの場合、SCのほぼ全てを自社で構成しています。
デザインについては、プロダクトマネージャーによる月2回の会議を経て
商品が決定されます。バイヤーとデザイナーは机を囲む形で座席が配置
され、モデルも常駐していますから、いつでもデザインの確認、打ち合わせ
ができるようになっています。
次に生地の裁断です。
物流センター内に生地が保管されており、自動裁断機で裁断し、縫製工場に
出荷します。実はインディテックスでは物流センターの在庫は、商品では
なく、生地なのです。
縫製については、60%が自社および近隣国の8工場で行ない、厳しい監査の
目を通し、生地を送ってから10日で自社工場に戻ってきます。
アジア工場では定番品の縫製が中心です。
続いてアイロン仕上げ、検品の工程になります。自社工場ないで細かく
アイロンがけをしながら、品質検査も行ないRFIDタグを装着し完成させ
ます。修正が必要となった場合には自社工場内で対応しています。
同社の場合、デザインから商品の完成まで2週間が基準になっていますが、
実際には1週間でできるとも言われています。
商品の出荷ですが、物流倉庫内での滞留時間は最大2時間。店舗からの
発注から2時間後には商品の仕分けが完了し、発注を受けてから8時間後
には出荷を終えます。
店舗への配送は、先述したように、ヨーロッパの店舗は陸路を使った
トラック便で、ヨーロッパ意外の店舗の場合は航空便を活用しています。
航空便の発着はサラゴサ空港をベースにしています。インディテックスの
ベース基地となっているだけあって、サラエゴ空港は9割が貨物輸送に
なっているそうです。ただし本社のあるラ・コルーニャから750Km近く
離れている(ちなみに、東京から青森までの新幹線の営業キロは約720Kmです)
ため、製造拠点から比較的近い(車で1時間程度)サンティアゴ空港から、
サラゴサ空港まで移送しています。
各国内にはDC(在庫保管型物流センター)を置かないというのが同社の
考え方で、実はZARAが日本上陸を果たしたころ、私の実家の物流会社で
店舗への搬入作業を請け負ったことがあります。
インディテックスはスペイン国内10ヵ所に物流センターを設けています。
本社物流センターの一角に、この10ヵ所の写真が大きく提示しており、
このことからも同社が物流を強く意識していることを感じることができ
ます。
これらの物流センターでは、週6日(日曜定休)×3交代(午前、午後、夜)の
24時間操業で回しています。3日が1サイクルとなっており、各店には週2回
発送が可能な仕組みになっています。さらに同社ならではの物流センターの
使い方になりますが、生地の裁断や検品など、製造工場の一部機能を担う
役割を果たしています。
Meco物流センター(13万6000㎡)では1000人以上が勤務し、1日100万着の
入荷・発送に対応しているそうです。
この続きは、次回に。